口には口を

 あなたのために、と装って、胸の内では自分の利益を計算している。これを「おためごかし」「親切ごかし」「上手(じょうず)ごかし」などといい、「ごかし」の3文字が後ろに付く▲だまして自分の手に入れる「転(こ)かす」に由来するらしい。怪しげな響きを伴う「ごかし」だが、近頃は手がいっそう込んでいる。特殊詐欺の手口の一つ「カード詐欺盗」がはびこっているという▲詐欺グループが警察官らを装って「キャッシュカードが不正使用されていますよ」と、うその電話をかけてくる。銀行の職員を装う者がお宅を訪ね、紙に暗証番号を書かせる。隙を見て、ご本人のカードを別のカードにすり替える…▲被害者はカードも暗証番号も盗まれ、そうと気付く前にお金を引き出されてしまうという。巧みな“配役”で「お助けします」と近づき、だます。とんだ「おためごかし」と言うほかない▲おれおれ詐欺などの特殊詐欺の被害額は昨年、全国で300億円ほどだった。ここ数年で減っているが、泣かされる人は後を絶たない。中でも「カード詐欺盗」の被害は急増している▲口八丁、口車と、詐欺にはよく回る口が付きものだろう。怪しい電話を受けても、大半の人が家族、周囲に話さないといわれる。必ず身近な人に相談し、口を使うことで「ごかし」の口から身を守りたい。(徹)

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