メジャーで大問題のサイン盗み、元NPB捕手が“断罪” 癖の解析とは「全然違うもの」

サイン盗み問題に揺れるアストロズ【写真:Getty Images】

アストロズのサイン盗みが大問題に「癖の分析なら、全然構わない」が…

 メジャーリーグでは、アストロズによるサイン盗みが大問題となっている。球団史上初の世界一に輝いた2017年から翌18年にかけてサイン盗みを行っていたとされており、すでにMLBが処分。球団はジェフ・ルーノー前GMとAJ・ヒンチ前監督を解雇したものの、昨年もまだ不正行為を続けていたと他球団の選手が指摘するなど、騒動は収束する気配がない。

 ヤクルト、日本ハム、阪神、横浜の4球団で捕手としてプレーし、2018年までヤクルトで2年間、バッテリコーチを務めた野球解説者の野口寿浩氏は、仮にサインを盗まれていれば、捕手であればすぐに気づくと指摘。他球団の選手がアストロズを疑っていたという事実に納得しつつ、選手が処分されていない現状に「おかしな話」と“異議”を唱えた。

 アストロズは17年から、ビデオカメラで相手捕手のサインを盗み、ゴミ箱を叩くことで打者に球種を伝えていたという。これについては、すでにMLBから処分が下り、選手たちも実際にやっていたことを認めている。さらに、ユニホームの中に電子機器をつけて球種を知らされていたという“疑惑”もあるが、こちらについては選手たちが完全否定している。

 野口氏はまず「動作解析しての癖の分析なら、全然構わないと思います。動作解析は試合の途中に入れる訳にはいかないので。つまり、それは事前の準備なのだから大いに結構だと思います。逆にピッチャー側も動作解析も入れて細かいところまで(癖を)直していかなければいけないのも責務です」と指摘。そして、「それとサイン盗みは全然違うものです」と“断罪”した。

 2017年のワールドシリーズでは、ダルビッシュ有投手が第3戦で1回2/3を6安打4失点、第7戦でも1回2/3を3安打5失点(自責4)と炎上し、ドジャースは世界一を逃した。ダルビッシュのスライダーがカットされる場面も多かったが、野口氏は「どんなにキレの良いコースに決まった変化球でも、分かっていれば対応できる。当てることくらいはできます。逆に、ほとんどカットしかさせなかったダルビッシュも凄い」と分析する。「実は、アストロズは私がメジャーリーグの試合中継に携わることになってからずっと(怪しいと)言われていたんです」。実際、ほとんどの日本人メジャーリーガーがアストロズに“黒い噂”があったことを明かしているが、疑惑は真実だった。

「悪いことをするからバラされる。やらなければいいだけの話です」

 では、もし相手チームにサインを盗まれ、打者が球種を分かっていたら、捕手は分かるのだろうか。

「キャッチャーの立場として言えば、どっちかだなと考えますね。(投手の)癖か、サインがバレているか。サインを複雑化して、打線の様子が変わればサイン盗みだという話ですし、それで変わらなければピッチャーの癖だと考えます。なので、相手も1、2イニングで気づくと思います」

 打者の立場として考えれば、球種が分かっているほどありがたいことはないという。

「(球種が分かっていれば)全然違います。スピードの感覚がありますから。タイミングはスピードで取るものなので。あとはどっちに曲がっていくか、速い変化球か、遅い変化球か、ということになります。変化球ならスライダーとチェンジアップならそんなにスピードが変わらないとか、そういったところがありますが、(直球ではなく)変化球と分かっただけでもバッターは助かると思います。

 キャンプ中の打撃練習では『球種教えますか?』とブルペンキャッチャーが言うので、最初のうちは『教えてくれる?』と頼みます。そして、キャンプの終わり頃には『教えなくていい』と言うと、全然打てなくなってしまう。やはり全然違います。バッティング練習で気持ちが入っていないというのもありますが、球種がわかっていれば対処できるものです」

 米球界では、最初にアストロズのサイン盗みを米メディアで“告発”したアスレチックスのマイク・ファイヤーズ投手に対する非難の声も少なからず上がっている。17年までアストロズでプレーした右腕が元同僚の不正を告発することが“裏切り行為”だというのだ。ただ、野口氏はこれもバッサリと斬る。

「悪いことをするからバラされる。やらなければいいだけの話です。監督とGMが処分されて、選手が処分されないのもおかしな話だと思います。今オフにアストロズを出ていった選手、野手が今どう見ているのかも気になりますね」

 謝罪会見後も他球団の選手たちは怒りが収まらない様子。MLBは、このままアストロズの選手たちを処分することなく、この騒動を決着させることはできるのだろうか。(Full-Count編集部)

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