『娘は戦場で生まれた』 目をつぶってはいけない現実がある

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 ジャーナリストに憧れていた女学生のワアドは、学生時代、デモへの参加をきっかけにスマホでドキュメンタリーの撮影を始めました。そこから、彼女の人生は真っ赤な血の色に染められていきます。彼女が暮らすアレッポでは激しい戦闘が置き、結婚、出産という愛に満ちた幸せは戦火に巻き込まれ、大きな爆撃に破壊されてしまっていきます。美しく楽しい都市だったアレッポは、大統領のアサド率いるシリアの政府軍と、自由シリア軍、そしてアルカイダ系反体制派が、土地の支配を巡って激しい内戦を繰り広げている場所です。

 映画を観ていると、信じられないような光景が目の前に広がります。おびただしい遺体の数々も、傷ついた子供たちも、血だらけの床も。全てが現実離れしすぎていて、怖くて、辛くて、目を閉じたくなる。子供たちの泣き声から逃れたくて、耳を塞ぎたくなります。それでも、絶対に私たちはこの現実から逃れてはいけない。戦場で子供を亡くす母親の辛さ、弟を亡くした子供の涙を私たちは目に焼き付けなきゃいけないんだって思いました。

 この映画を観たとき、ちょうど日本では俳優夫婦の不倫スキャンダルでワイドショーは持ちきりでした。私たちが普通に生活し、セレブの不祥事をおせんべいでもかじりながら観ているとき、地球の裏側では多くの子供たちが泣いている。私たち自身が<母親>になって子供たちを守らなければ。そんな気持ちにさせてくれる、とてもとても勇敢なドキュメンタリーです。★★★★★(森田真帆)

監督:ワアド・アルカティーブ、エドワード・ワッツ

出演:ワアド・アルカティーブ、サマ・アルカティーブ、ハムザ・アルカティーブ

2月29日(土)から全国順次公開

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