マスコミが報道する「人身売買組織」ほど非現実なものはない デスクに座っていればニュースが流れてくる“記者クラブ”は権力の犬なのか

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コロナパニックですべてのニュースが霞んでしまいそうな勢いだが、風俗業界的には看過できない事件があった。

民放各局が2月20日、横並びに報じたところによると、群馬県太田市でフィリピンパブを3店舗経営する70歳の男性経営者・F、及びにフィリピン人ホステス17人が入管難民法違反の疑いで警視庁に逮捕された。

Fは一昨年9月から12月のまでの間に、不法残留のフィリピン人ホステスを働かせていた。もちろん、この3ヶ月というのは捜査で裏が取れた期間ということで、さらに長期にわたっているのは間違いない。

この行為が入管難民法違反にあたるわけだが、さらにFはホステスが入国した後、仲介者等にかかった費用40万円を返済するまでは帰国させなかったという。これについて、警視庁は人身取引との認識で、調べを進める模様だ。

警視庁がマスコミ各社に公開した押収品には、フィリピン人ホステス名義の銀行通帳、源氏名が書かれた管理(?)リスト、そして返済にあたってホステスらに渡した領収書などがあった。領収書には5万円と記されており、いま何回目で残金いくらとも記述されている。つまり、40万円なら8回で完済されるわけで、事実8回目の領収書には残金ゼロとも記されているのだ。

ちなみにFは2014年から現在までの間に3店舗で約2億2千万円を売り上げていたという。また、ホステスを金銭で管理したことについても認める供述をしているので、捜査自体はスムーズに進むとみられる。

さて、ここで注視したいのはこの逮捕が警視庁主導であり、警視庁記者クラブに向けて公表したことだ。

各局横並びの報道といい、まず警視庁が望むままの報道と言っていい。そのなかで、入管難民法違反、不法残留、人身取引……などという「刺激的」なワードが並んでいる。興味がない一般国民が見れば、なにかとんでもない残酷なことが行われて、それを警視庁が摘発した!と思ってもおかしくない。実際、国連などで日本が人身売買を行っているとする根拠のひとつが、今回のような事案だ。

もちろん、人身取引や借金をかたに仕事をさせるのは非人道的であり、許されるものではない。ただ、この報道の映像で見て取れるだけでも、借金返済は8回で終わっており、その後フィリピン人ホステスが逃げ出した、あるいは保護を求めたという話は出てこない。また、売春を強要されたなどという報道もない。

誤解を恐れず言えば、もし、経営側・ホステス側両者の間に合意があったとすれば、(法は別にして)ウィンウィンの話であり、ことさらセンセーショナルに煽るようなことではないだろう。

実際、「事件現場」となった群馬県太田市の繁華街には多数のフィリピンパブがあり、スバルの企業城下町として好景気を享受する労働者たちの憩いの場ともなっているのだ。

そのような状況下で、なんら背景も説明せず、ただ用意された資料だけを垂れ流し、結果的に警視庁の広報としての役割を担っているのが、大マスコミの記者クラブである。それが、下々の「風俗関係」となればなおさら、ということなのだろう。(文◎堂本清太)

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