経済指標の読み方を身に付けよう

2月17日の朝方に内閣府が「四半期別GDP速報」にて2019年10~12月期の国内総生産(GDP、速報値)を発表したところ、1年3ヵ月ぶりのマイナス成長や、前期比年率▲6.3%と事前の市場予想(同▲3.9%)という結果が売り材料となり、日経平均株価は一時前週末比350円安まで下げました。

これはニュースでも取り上げられ、発表された日はSNS上でも大きな話題となっていました。今回はこれを機に経済指標の読み方を学びましょう。


いつと比べた数字?物価は考慮されてる?

GDPの発表があった日にこの件をtweetしたところ、反響が非常に大きく、GDPについていくつかの質問をもらいました。本連載「お金の育て方」は、投資未経験者や初心者に向けた内容なので、GDPに関する基礎的な解説として、経済指標の読み方について説明します。

冒頭のようにGDPの成長率がニュースで取り上げられていました。普段GDPの成長率を気にしていない人も「▲6.3%」の数字だけをみると、なんだかとても大きく成長率が落ちている印象を受けると思います。しかし、GDPに限らずですが、経済指標はその数字が何を意味しているかをみなければいけません。

経済指標では数字の前に「前年比」(または前年同期比など)、「前期比」(または前月比など)、「前期比年率」という言葉が付きます。今回は2019年10~12月期のGDPが発表されたので、「前期比」の場合は前の四半期、つまり2019年7~9月期と比べてどれぐらい成長したかを示します。冒頭の「▲6.3%」は「前期比」ではなく、「前期比年率」と書いてあり、「前期比」とは意味が違います。

「前期比年率」とは、前の四半期からの成長率(前期比)が4回続く(1年間に換算)と「前年比」がどうなるかを計算しています。「前年比」とは、読んで字のごとく1年前との比較で、今回(2019年10~12月期)の「前年比」というと2018年10~12月期との比較になります。

また、GDPには「実質GDP」と「名目GDP」があります。実質は物価の変動を控除したもので、名目は物価の変動を控除しないでそのまま算出したものです。

たとえば、ある年のGDPが100円で、翌年のGDPが102円だとすると、「名目GDP」の成長率は2%になります。しかし、この1年間で物価が2%上昇したとすると、「名目GDP」の成長率は2%ですが、「実質GDP」の成長率は0%となり、実は一切成長しておらず、あくまで物価の上昇による見かけだけの成長となります。よって、実質の数字を見た方が成長を正確に捉えられますが、名目の方が生活での実感に近いといえます。

さて、ここまで理解すれば、「▲6.3%」の数字以外も見た方がいいことがわかりますね。2019年10~12月期のGDPは実質だと前期比▲1.6%、前期比年率▲6.3%。名目だと前期比▲1.2%、前期比年率▲4.9%となっています。「前期比年率」は瞬間風速を表現する算出方法なので、実際は前期比を見た方が分析をするにはいいかと思います。

表面上の数字だけでなく内訳もみよう

さて、表面上の数字の見方を解説しました。同じ期間のGDPでも、前期比か前期比年率なのか。または名目か実質なのかで数字が変わってくることはわかりましたね。しかし、このような表面上の数字だけを見て何かを判断するのは好ましくありません。しっかりと内訳をみる習慣をつけましょう。

GDPはいくつかの項目から構成されています。内閣府のページからGDPの内訳を詳しく見ることはできますが、ここでは簡単に内訳をまとめて、下図のように寄与度別にグラフ化してみました。

(出所):内閣府「国民経済計算」のデータを基に株式会社マネネが作成。

グラフから何を読み取ることができますか。今回の四半期GDPの成長率が大きく下がっているだけではなく、その要因で一番大きかったのは個人消費の落ち込みとわかります。

昨年の10~12月の3ヵ月間、個人消費をここまで引き下げるイベントはあったでしょうか。一番大きいのは間違いなく消費増税です。それ以外にも台風による被害や、暖冬といった他の要因もあるでしょう。今回はこの点を深堀りはしませんが、GDP以外の経済指標なども見ていくと、これらの要因を明確に暴くことができます。

時系列データも重要

報じられている数字の意味や、内訳を見る重要性を学んだ次は、時系列データを見ることも習慣づけましょう。

先程のグラフはまさに時系列データをグラフ化したものになります。「2019年10~12月期の実質GDPは前期比年率▲6.3%です」と言われても、頭に数字がしっかりと入っていないと、数字に対して正確な判断ができません。

なんとなく大きく下落しているようには感じるかもしれませんが、時系列で見てみると、明らかに今回の下落率が大きいことがわかります。今回は3年分(12四半期)の時系列データとなっていますが、先程紹介した内閣府のページでは1994年4~6月期のデータから確認できます。

比較すべき時期を探そう

時系列データを分析する時に、直近の数年間を見ることに意味はありますが、あえて比較する時期を意図的に抽出することも有効です。

前述のように大幅なGDP成長率の下落が消費増税によるものと仮定するならば、過去の増税時の時系列データを見ていくことで新たな発見があるかもしれません。たとえば、2014年4月(5%→8%)や1997年4月(3%→5%)の時を同じように見てみましょう。

(出所):内閣府「国民経済計算」のデータを基に株式会社マネネが作成。

(出所):内閣府「国民経済計算」のデータを基に株式会社マネネが作成。

消費増税時には個人消費が大幅に落ち込むことでGDP成長率も大幅に下落していますが、それぞれ個別要因もあります。直近の増税であれば2014年の時(上段の図)と比較になりますが、増税幅が2%と考えると1997年の時(下段の図)の方がいいかもしれません。

また、今回は増税のタイミングで幼児教育の無償化やキャッシュレス還元、軽減税率の適用などもあり、過去の消費増税の時にはなかった施策も同時に打たれています。比較をする場合は異なる部分を考慮する必要があります。
このように、新聞やニュースで経済指標が報じられても、表面上の数字だけを見るのではなく、その数字の意味や、内訳、時系列データを見ていく習慣をつけていきましょう。

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