国境の島の現在地 対馬市長選(上) <島内経済> 日韓関係悪化 影落とす

島内のホテルから集めたシーツを仕上げ機にかける従業員=対馬市厳原町、田中リネンサービス工場

 任期満了に伴う対馬市長選(3月1日投開票)は、再選を目指す現職の比田勝尚喜氏(65)と新人で飲食店経営、荒巻靖彦氏(55)=いずれも無所属=が一騎打ちを演じている。1960年に7万人近かった対馬の人口は現在、約3万人にまで減少。「国境の島」の現状と課題を報告する。

 「今回の韓国人観光客減少の影響はこれまでになくひどい。半年くらい赤字が続いた東日本大震災の時以上ではないか」-。約30年、島内のホテルからシーツ類のクリーニングを請け負っている田中リネンサービスの田中敬二社長(55)は、厳しい現状に肩を落とす。
 同社は昨年6月末、1時間に300枚分をアイロンできる全自動仕上げ機を導入。パートを含む従業員20人態勢で受注をさばいていたが、そこに日韓関係悪化が立ちはだかった。
 市によると、韓国から海路で対馬を訪れた韓国人観光客数は2011年が年間約5万人。同年10月のJR九州高速船(福岡市)による釜山(プサン)-比田勝の定期国際航路就航など日韓の船会社による新規参入が相次いだことも追い風となり、18年は約41万人と過去最多を記録した。それが昨年は約26万人にまで激減。8年ぶりに減少に転じた。
 日韓関係の悪化は、田中リネンサービスの経営を直撃する。昨年末にはやむなくパート2人を解雇した。だが、これは同社に限った話ではない。
 対馬公共職業安定所によると、韓国人観光客減に伴い、対馬市内の事業者から解雇された労働者は昨年7月以降、今年1月末までに計63人を数える。業種別では宿泊業が25人と最多。飲食や小売りなどにも影響は広がり、島内経済に影を落とす。
 島内経済が韓国人観光客に支えられている状況を裏付ける数字がある。韓国人観光客数が好調だった18年度、県対馬振興局に申告された島内の法人事業税額は総額2億1千万円。11年度と比べ約2.1倍の伸びだった。同局税務課は「けん引したのは(宿泊業などの)サービス業。税収面からも対馬の経済状況が好転していたことがうかがえる」と分析する。
 韓国人観光客数が激減する中、国際情勢に左右されない観光を構築する動きも始まっている。今月5~7日には、県観光連盟が国内の旅行業者らを招いたモニターツアーを実施。13社約20人が体験観光スポットを見て回り、参加者からは「国境の島ならではの歴史や食など、対馬は観光地としてのポテンシャルが高い」などと好評だった。
 ただ、市によると、対馬を空路で訪れた日本人観光客数は18年、3万人程度と推計。韓国から海路で来島した韓国人観光客約41万人の1割にも満たないのが現状だ。政府や県も支援策を講じ、官民挙げて対馬への誘客の多角化を図っているが、打開の兆しは見えない。

 


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