[春原久徳のドローントレンドウォッチング]Vol.34 2020年ドローンビジネスの現在

2015年末にドローンを対象とした航空法が改正され、ドローンの活用に向けて、官民合わせて様々な投資や実証実験が行われてきた。2020年に向けて、5か年計画という形でプロジェクトが実施されてきたものも多い。いよいよ2020年となり、その時に策定したロードマップで達成しているものと達成していないものが当然だが混在している。

そんな中で、ドローンの活用、特にドローンビジネスの状況に関して、落胆と期待が今なお混在しており、上手くいっている企業がある一方、方向転換を余儀なくされた企業も出てきている。

ドローンビジネスは低迷しているのか

Q「ドローンのビジネスで上手くいっている企業があるのか?」A「成功するのは難しいところもあるが、売上を向上させ、利益を出してきている企業もある」

2015~2016年ぐらいから3年計画程度で投下されてきた国プロといわれる各省庁などの技術開発系の予算が2019年を目処に一段落し、ドローンに関しては次のステップに移行し始めた。今までの多くのケースと同様に、この中には、社会実装に向かっているものと開発段階で社会実装に進んでいっていないものもある(多くはなかなか社会実装が難しい結果となる)。

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小型無人機の利活用と技術開発のロードマップ(2016年4月28日)

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ドローン関連企業の多くは、多かれ少なかれ、今までこういった国プロ・公共予算の恩恵を被ってきた。その予算が次のステップに移行するにあたり、それに頼らないビジネスが確立しているかどうか-きちんと自らのビジネスとして社会実装する形になっているかどうかが、そのドローン企業の命運となっている。

その社会実装という局面においては、技術の優位さという側面よりも、ユーザーが、特にドローンビジネスの場合には活用する企業ユーザーが、そのソリューションに対価を払う形態になっているかどうかということである。そういった点においては、ドローンソリューションがその企業ユーザーにとって、なくてはならないものになったものを提供しているドローン企業は上手くいっている企業となる。

そんな点において、ドローンビジネスは全体が低迷しているわけではなく、その個別のドローンビジネスが上手くいっていないということで、市場はそれなりに動いてきており、現状苦戦している企業は自社の技術やソリューションとそれがターゲットする市場性やユーザーから見た有用性、必要性を見直す必要がある。

レベル4は打ち出の小槌か

政府は大きな方針として、2015年にレベル1~レベル4のドローン運用環境のロードマップを打ち出した。各省庁、特に国土交通省はその運用環境のロードマップに基づき、レベル4(人口集中地区での目視外飛行)の実現に向けて着々とその土台を整え、今年、2020年にはその実現のための具体的なスキーム(法律やその他のルールなど)が提出される予定になっている。そういった点においてはきちんと進捗している。

2015年、ドローン活用の中心として、ニュースバリューが大きかったのはアマゾン社が計画するドローン配送の計画だった。それを受けて、楽天などの企業が日本でのドローン配送の可能性についての実験が開始され、千葉の幕張地域で特区として、ドローン配送実験などが行われた。

2013年12月に発表したAmazon PrimeAirのイメージビデオ

その時点において、レベル4の運用は目標としては悪くはなかったが、2020年現在において、ドローン配送は、途上国での緊急搬送などでビジネス的にも進んできてはいるが、都市でのドローン搬送をビジネスとして成功させている企業はない。アマゾン社も同様で、現在ドローンでの搬送に関しての計画は不透明だ。

それは、やはり都市でのドローン搬送におけるメリットとコストおよびリスクのバランスが取れないということだ。具体的には積載重量当たりのソリューションコストが高く、墜落リスクだけでなく住民感情も含むリスクが、コストと比べてバランスされない。加えて、都市部においては残念ながら、テロでのドローン使用が発生してきており、なお、日常的な中でドローンを使うことは難しくなっている。

搬送だけでなく、レベル4のスキームが出来上がっても、なかなかビジネス側で利益の出るモデルが築きにくい(ビルの点検などは可能性があるが、優先順位としてはインフラやプラントなどの点検に比べれば高くないだろう)。

ドローンビジネスが見えにくい理由

ドローンビジネスが動いている実感が捉えにくいのは、いくつかの要因がある。

一つが地方での活用が中心ということだ。土木測量、農業、各種点検、緊急搬送など、現在、最終実証・実用化されている分野での舞台は地方が中心で都市部ではない。そんな点において、レベル3(人口集中地域以外での目視外飛行)では多くの実験がなされており、そこでの課題の抽出や実用に向けての調整がされている。日本の産業は都市部が中心であり、多くが都市部で生活していることもあり、多くの人や企業にとって実感が伴わないのは仕方ないだろう。

もう一つが、日本ではドローンを必要とするユーザー企業が実証実験を繰り返しているという点だ。ユーザー企業は上場企業が中心で、特に点検分野での活用に向けての実証実験が盛んだ。これがもしドローンサービス企業であれば、そのマーケティングや顧客獲得のために、外部に対して積極的に発信をするが、ユーザー企業においては、そのドローン活用の成功が生産効率化やリスクの回避などとなり、その企業競争力を高めることにつながるため、外部に発表することは少ない。

ドローン関連企業で収益を上げ始めている企業は、こういった大手企業の実証実験に寄与し、実用化を着実に進めている企業に多い。それは、当初石油メジャーと契約をし、ソリューションを深めていったSky Future社(英)のパターンとよく似ている。

次に求められるもの

地方での活用やユーザー企業内での実用化が進んでくる中で、求められているのはドローンのより高い安全性と扱いやすさである。高度な技術というよりも既存技術や運用の工夫で実現していくものであり、そういった実績と経験がドローン企業の資産となっていく。

制度としてはレベル4の実現も必要だが、活用が進むレベル3-人口集中地区以外での完全無人化(無人ポートが離発着し、データ取得や作業を行うなど)に向けて、どんな法整備やルールが必要なのかを模索していくことが、活用をより進めていく要因になるだろう。

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