「それを求めて阪神に来た」 期待、重圧を楽しむ西勇輝の飽くなき挑戦

阪神・西勇輝【写真:荒川祐史】

抜群の制球力を武器に移籍1年目の昨季は10勝を挙げたが「1キロでも速くって…」

 2020年。移籍2年目のシーズンを迎える阪神の西勇輝投手。昨季は26試合に登板し10勝8敗、防御率2.92の成績を残し“エース級”の活躍を見せた。自身2度目の開幕投手としても期待がかかる右腕がFull-Countの独占インタビューに応じタイトル奪取、チームの優勝、そして自身初の180イニングを目標に定めた。

 沖縄・宜野座で行われている春季キャンプで順調に調整を進める西勇。プロ12年目のシーズンを前に「調子は素晴らしい。いいですね。年々、コントロールが良くなっている。春キャンプにどうして仕上げていくか分かってきた」と手応えを口にする。

 驚くほどの球速はなくとも内外に投げ分ける制球力でここまで通算84勝をマーク。150キロ、そして160キロも珍しくない時代だが自身も球速を求めることがあったという。

「去年、一昨年、常に持っていた。1キロでも速くって…。でもそれが力みに変わる。疲れがたまったり、変なところが張ったりと…。それを見失うことが何回かあった。トライしてそれは違うと分かった。自分に合ってない。今はコントロール重視、土台のコントロールを作れば怪我せず1年間、回れるようになってきた」

 オリックス時代から大台となる“150キロ”に興味を示したこともあった。それでも怪我なく先発ローテーションを守り続けてきたのは自らを見つめ直し常に進化を求めたからだ。29歳となり若手投手陣が集まる阪神では中堅としてチームを引っ張ることも求められている。

移籍して気づいた若手投手陣の練習「ヤギ(青柳)、遥人(高橋)も右も左も分かってなかった」

「そういう存在が1人でも多くなればチームは強くなる。周りを指導するのって難しい、けど指導しないといけない立場っていうのも分かってる。気づいて本当に自分がアカンなってことは注意するけど、その選手がそれを信じてやってる場合の練習もある。そこをしっかり見極めて話してあげるのが大事かなと。いきなりこうだから、それは違うっていうのは違うのかなと。

 中堅がいなかったからどういう風にして、どういう練習したらいいかあんまり分かってなかった。ヤギ(青柳)、遥人(高橋)も右も左も分かってなかった。僕は僕で話しやすい環境を作るつもりだった。助言じゃないけど聞いて来てくれて嬉しかった」

 昨年はチーム最多、自身最多となる172回1/3を投げ、チーム最多の10勝を上げフル回転。通算100勝まで残り16勝となり「上手くかみ合えば今年でいける可能性もある」と今シーズンでの達成に意欲も見せる。だが、西勇が思い描く投手像は“勝ち星”ではないようだ。

「勝ちを増やすより、負けない投手になりたい。生涯の目標として150勝、2500イニング。現実味が1番ありそうですよね。野球終わるまでに。あとは通算100勝もいいけど、12球団勝利をやりたい。巨人とオリックスだけかな? 移籍しないとできないことだし、FAを取れた権利だと思っている。誰もが可能性があることを成し遂げたい。100勝だったり150勝、1000イニング、1500イニング、全部やりたい。交流戦で運があればって感じですけど」

「取れるものは全部取りたい。取れて悪い気はしないし、とれるものは取りたい。常に意識を高いところで目標持つことで下がっても高い位置になる。それは菅野さん(巨人)がよく言っていた。その思考はとても大事だと思う。10勝なんだ!って言ってる選手は10勝以下にしかならないし10勝してもたまたま。目標が高い人はそれ以上になる。15勝と言えば13、14勝になる。そういう意識は常に持っておきたい。タイトルだってそう。考え方が違う」

昨季は打率.205、4打点、13犠打と打撃でも貢献「疎かにする理由がない」

 セ・リーグに移籍し打席に立つ機会も増えた。昨シーズンは44打数9安打、打率.205、4打点、13犠打をマーク。投げる専門の投手として、打撃を軽視することを西勇は酷く嫌う。

「バッティングは凄く大事だと思う。特にセ・リーグは。打たないとバントしないと変えられる。『今日ピッチング調子いいしもう1イニング投げさす?』ってなることもある。仕事だから絶対、これを疎かにする理由がない。やって得だし、チームにも得しかない。マイナス要素がない。走塁練習だってそう。投手だからっていう言葉が嫌い。成功するための練習をしている。そのためにどう考えるかだと思う」

 目標を高く持つことで自身を鼓舞し、そして結果として成績を残していく。移籍1年目となった昨年を振り返り「最低限はできたかなと思うけど、欲を言えば負けが少ない投手になっていきたい」と語る。

 大きな期待がかかる2020年シーズンに向け「本当にやりがいがあります。それを求めて阪神に来たので。まずは180イニング、怪我をしない、そしてチームの優勝を目指していきたい」。猛虎のエースとして今シーズンも背番号「16」はマウンドに立ち続ける。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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