難病患者の就労支援の拡充を目指して「難病手帳の制度化を考える会」が発足

難病患者の治療は長期に及びますが、身体障害者や精神障害者のような手帳制度がないため、障害者枠での求人に応募することができず、就職では難しい状況に置かれ続けています。

このような現状をなんとかしようと、長年難病患者の就労支援に取り組んできた中金竜次さんは「難病手帳の制度化を考える会」を発足。難病患者同士の情報交換に取り組むとともに、官庁や社会へのアピールを進めていくと話しています。


難病患者は手帳の取得ができない

「私は労働局やハローワークで6年ほど難病の方の就労支援をしていたのですが、訪れる難病の方には、明らかに一般雇用で就職するのは難しいという方が少なからずいらっしゃいました。しかし、そのような方でも身体障害者手帳の要件には該当しないので、手帳を取得することができない。そのために障害者枠で仕事をすることもできなくて、働けないまま生活保護になるか、もしくは無理して一般雇用で働いて体調を悪化させてしまう。そういう現状が見えてきたんです」

こう話すのは、就労支援ネットワークONEの代表、中金竜次さんです。看護師の資格を持つ中金さんは、障害者職業センター、神奈川労働局や横浜ハローワークで難病患者就職サポーターとなり、年間1,000件余りの難病患者の就職相談を受けた経験から、難病患者の就労支援拡充の必要性を痛感。2019年に「難病手帳の制度化を考える会」を発足しました。

難病とは、2015年施行の「難病の患者に対する医療等に関する法律(難病法)」の定義によると、

・ 発病の機構(原因)が明らかでない

・ 治療方法が確立していない

・ 希少な疾患である

・ 長期の療養を必要とする

という4つの要素をすべて満たす疾患のことを指します。

医療費助成対象の指定難病は

・患者数が人口の0.1%程度以下であること

・客観的な診断基準(又はそれに準ずるもの)が確立していること

2019年7月現在、国は333の疾患を指定難病と定めています。医薬の進歩により、寿命も伸び、日常生活も支障なく営めるケースも増えてきていますが、就労支援という点になると、難病患者は置き去りにされている印象があると、中金さんは話します。

一般雇用で働くには困難な患者も

現在、障害者雇用促進法という法律により、民間企業は従業員数に対し2.2%の障害者を雇用しなければならないことになっており、身体障害者手帳・精神障害者保健福祉手帳・療育手帳を持つ人などがこれに該当していますが、難病に関しては手帳制度が存在してないため、この恩恵に預かられていないというのです。

「障害者雇用ではなく、一般雇用で就職活動をしようとすると、通院の頻度は様々ですが、月に1回程度の方も多い。病気の開示や、通院や一定の配慮について採用選考の際に話しにくく、実際には、それだけで採用されるのは難しくなってしまう現状があります。

指定難病については就労支援の助成金制度がありますが、これは公費として難病の人を採用した際に企業に支払われるもので、十分な恩恵が難病の人に届いているとは言い難いです。

身体障害や精神障害のように難病にも手帳制度があれば、障害者枠での就職活動をすることができ、合理的配慮もしてもらえますし、雇用されてからも支援機関に会社との調整に入ってもらうことができますが、一般雇用だとそれができません。必要な難病患者にも障害者雇用で働くことができるようになれば、無理せず仕事を続けることができると思うのですが」と中金さんは話します。

官民合わせた議論が必要

障害者雇用率制度の対象外となるため、十分な就職上の配慮を得られていない難病患者。その現状をなんとかしたいと、中金さんは「難病手帳の制度化を考える会」を立ち上げ、難病患者が話し合う会を全国で開催したり、ネット署名の活動をしています。

制度の谷間にいる難病患者の就労がもっと可能になるためにも、官民合わせた議論の活発化が、いままさに必要とされているのです。

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