ブラック企業マップとは?会社のリストと作成の理由を解説

「ブラック企業マップ」というサイトをご存じでしょうか。実際にアクセスしてみたことがある人もいるかもしれません。2019年に閉鎖になったサイトですが、ブラック企業を地図上に分かりやすく表示するアイデアが話題を呼びました。このブラック企業マップとは一体どのようなものなのか解説します。

ブラック企業マップとは?

現在は閉鎖されてしまっている「ブラック企業マップ」ですが、どのようなサイトだったのか、どのような情報が載っていたのかは現在でも調べることができます。まずはブラック企業マップの概要について紹介します。

個人が作成したブラック企業の所在地を示す地図

ブラック企業マップ。厚生労働省による公的な発表でも、こうやって見やすくまとめて検索性、閲覧性を高めるとその影響力も高まりそう
それにしても絵面がどぎついw pic.twitter.com/lQud6Opbz8

— mizti (@mizti) December 9, 2018

(出典:mizt | Twitter)

「ブラック企業マップ」は、個人がGoogleマップの機能を使って作成した地図です。ブラック企業の住所をGoogleマップ上にピンで落とすことにより、どの地域にどのくらいブラック企業があるのか、日本全国を見渡すことができるようになっていました。

ピンのデザインはGoogleマップのデフォルトのものではなく、オリジナルのドクロイラストをピンにしていました。ブラック企業の数が多かったため、日本中がドクロの絵で埋め尽くされるビジュアルとなり、話題を呼びました。

現在は閉鎖中

ブラック企業マップは2018年8月に公開されましたが、2019年末に閉鎖されました。作者は「社畜」というユーザーネームでTwitterを開設しています。今後の動向が知りたい人はそちらをチェックしてみてください。

参考

ブラック企業マップ

「ブラック企業マップ」で違法企業を可視化 サイト運営者の思い | ライブドアニュース

どのような会社がマッピングされていたのか知りたい!

閉鎖されてしまったサイトではありますが、どのような企業が掲載されていたのか気になる人もいるのではないでしょうか。ブラック企業マップは、実は明確な基準の下に企業をマッピングしていました。

厚労省「労働基準関係法令違反に係る公表事案」リスト

ブラック企業マップが「ブラック企業である」と判断し、掲載する根拠として使用していた資料があります。それは「労働基準関係法令違反に係る公表事案」というもので、厚生労働省が2017年より毎年発表しています。

これは名称の通り、各地の労働基準監督署が把握している、法令に違反した企業を並べたリストです。賃金不払いから、法律で定められた安全対策を取らなかったものまで、数々の事業者名を知ることができます。

参考

労働基準関係法令違反に係る公表事案(平成31年1月1日~令和元年12月31日公表分) | 厚生労働省

長時間労働削減に向けた取組|厚生労働省

上記リストは現在も年に1回更新されている

「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は毎年1年分を厚労省が取りまとめ、公開しています。現在公開されているリストは2019年のものです。

公開されている年以前のリストは基本的に非公開となってしまうようです。2017年リストのリンクはコンテンツが削除されていました。

しかし、2017年からのデータを保存して公開しているサイト「ブラック企業リスト・マップ|井を出た蛙の生中継」があります。最新の2019年データは反映されていませんが、実質的にブラック企業マップの代替サイトとして利用できそうです。「ブラック企業リスト・マップ|井を出た蛙の生中継」はGitHubで公開されているデータセットを基に作成されています。

参考

ブラック企業リスト・マップ|井を出た蛙の生中継

nyampire/jp_labor_act_illegal_list: TSV dataset of illegal companies from Ministry of Health, Labour and Welfare, Japan | GitHub

どうしてブラック企業マップを作ったの?

大きな注目を集めたブラック企業マップですが、作成者はどうしてこのようなサイトを公開したのでしょうか。本人に行われたインタビューによると、自身の体験が原点となっているそうです。

過労で体調を壊した

昨年まで設計事務所に勤めていましたが、辞めてしまいました。残業代不払いなどの問題もありましたが、何より耐えられなかったのは、上司からのパワハラでした。

ずっと我慢していましたが、精神的にも病んでしまい、体は震えるし、毎朝車で通勤しながら、「追突でもされて入院になれば、会社に行かなくていいのにな」と思っていました。ある日会社を飛び出して、そのまま心療内科に駆け込み、診断書を書いてもらって休職し、そのまま退職しました。

そのときの怒りと悔しさ、悲しさを、どこにぶつけていいかわからず、自分なりに表現したのがブラック企業マップです。当時は、もう、モニターが涙で見えないくらいでしたよ、本当に。

(引用元:「ブラック企業マップ」で違法企業を可視化 サイト運営者の思い | ライブドアニュース)

このときに勤務していた設計事務所はブラック企業マップには掲載されなかったそうです。「労働基準関係法令違反に係る公表事案」は「基発0120第1号」という通達を根拠に作成されています。それによると、労働基準法違反の中でも特に重大な過失と見なされるもののみリスト化されます。

上記⑴の監督指導において再度違法な長時間労働等が認められた企業、又は、違法な長時間労働を原因とした過労死(過労死等のうち死亡又は自殺未遂をいう。以下同じ。)を複数の事業場で発生させた等の企業の経営トップに対して、本社を管轄する局長から、早期に全社的な是正を図るよう指導を行うとともに、指導を行った事実を企業名とともに公表すること

(引用元:違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について | 厚生労働省)

そのため、程度が重くない違反は、たとえ労働基準法に違反していても掲載されません。ブラック企業マップではこの線引きを大切にし、実際に「この会社を掲載してください」という依頼にも個別に応えることはしなかったそうです。

参考

労働関係法令違反における 企業名公表をめぐる対応実務 | 中央総合法律事務所

アルバイトで突然失職した

また、上記の労災経験よりも以前に、アルバイトの雇い止めに遭ったこともあるそうです。このときに労働組合に加盟し、解雇予告手当等を請求する団体交渉を経験しました。「自分は労働者の当事者である」という意識を持つのに大きな影響を与えた出来事だったそうです。

参考

「ブラック企業マップ」で違法企業を可視化 サイト運営者の思い | ライブドアニュース

ブラック企業に対する抑止力

事業者の名称と理由を「ブラック企業」として公開することを、ある種の社会的制裁と捉える人もいるでしょう。しかしブラック企業マップが目指していたのは「抑止力」だったそうです。前述の通達でも、同様の目標を掲げています。

なお、当該公表は、その事実を広く社会に情報提供することにより、他の企業における遵法意識を啓発し、法令違反の防止の徹底や自主的な改善を促進させ、もって、同種事案の防止を図るという公益性を確保することを目的とし、対象とする企業に対する制裁として行うものではないこと

(引用元:違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について | 厚生労働省)

厚労省が発表するPDFは単なるリストであり、読みにくいと感じる人もいるでしょう。それを誰もが直感的に操作できるGoogleマップ上に落とし込んだということが、ブラック企業マップが話題になった理由のひとつと言えそうです。

今実際にブラック企業で困っている人のために

ここまで2019年に話題になったブラック企業マップについて紹介してきました。最後に、現在実際にブラック企業に勤めて心身に悪影響が出ている、どうにかしたいと困っている人のために情報を紹介します。

労基署に行って解決するの?

ブラック企業マップの運営者も「まずは労基署に行くこと、権利があることを知ってほしい」と話していました。しかし悪質な企業にずっと勤めていると「どうせ訴えても変わらない」と無力感を感じるようになっている人もいるかもしれません。

実際、労基署は窓口の担当者によって反応はさまざまで、良い解決策を教えてもらえないということもあるそうです。そのため、このような窓口交渉に強いサポーターを得ることをおすすめします。

サポーターの中で最も心強いのは法律の専門家である弁護士でしょう。「労基署になぜ弁護士?」と思うかもしれませんが、関係法律に精通している専門家が出向くことで話を通しやすくなるという効果があります。仮に労基署側が乗り気でなかったとしても、「尻を叩いてやらせる」ことが得意なのが弁護士です。

弁護士事務所の中には、特に労働問題を専門にしているところもあります。労働問題には不払い賃金があったり、慰謝料を請求できたりと、本人が受けた被害を金銭で補償させるものが多くあります。そのため企業に支払ってもらった金額の一部を成功報酬として受け取ることで弁護士業を成り立たせています。

参考

労働問題に強い弁護士に出会うために知っておきたい4つのこと 労働問題コラム|ベリーベスト法律事務所

労働相談を受け付けている団体

自分だけのささいな問題だと思っていたり、自分が悪いと自分を責めていたり、相談するほどのことなのかわからなくても、 それがよくある労働問題だったり、職場の法律違反だったり、解決できるケースであったりすることは少なくありません。

ひとりで悩む前に、ぜひためしに一度、お気軽にご連絡ください。

(引用元:労働相談受付 | NPO法人POSSE)

しかし、良い弁護士を自分で見つけられないということもあるでしょう。そのような場合は労働相談を専門にしている団体に問い合わせてみてください。それぞれのケースに合わせて良い対応方法を一緒に考えてくれます。

参考

労働相談受付 | NPO法人POSSE

労災や傷病手当について

「本当は今すぐにでも仕事を休みたいんだけど、生活がかかっていて辞められない」という人もいるでしょう。しかし、そのような場合にも使える社会保障があります。

まず有名なのは労災保険ですが、これは労基署によって体調不良が労災であることが認められる必要があります。そのため、実際に給付を受けるまでに少し時間がかかります。

一方、診断書のみで給付が受けられる「傷病手当」が社会保険にはあります。労災かどうかもまだ分からないが、とにかく一定期間会社を休みたい、という状態の人に給与のおよそ3分の2に当たる金額が給付されます。このような制度を活用して、まずは心身をいたわってあげてください。

参考

労災認定について会社と労働者が絶対に知っておくべき6つのこと | ベリーベスト法律事務所

病気やケガで会社を休んだとき 健康保険ガイド | 全国健康保険協会

まとめ

2019年に話題になったブラック企業マップ。名前だけを見ると話題性を重視したサービスのように思われますが、「ブラック企業をなくしたい」という真摯な思いから作られたサイトでした。現在は休止していますが、同様の情報を得られるソースは存在します。ブラック企業で困っている人はどうか無理せず、自分の心身を休めてより良い再出発ができるよう、情報を活用してください。

参考

違法な長時間労働や過労死等が複数の事業場で認められた企業の経営トップに対する都道府県労働局長等による指導の実施及び企業名の公表について | 厚生労働省

相談事例 これって時間泥棒! 1ヶ月変形労働時間制悪用で、ただ働きの労働時間? トラック運送と介護の職場の実例 | 労働相談、ブラック企業をなくす東葛の会、千葉労連東葛ユニオン

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