スーパーGT:ミシュラン使用、そしてルーキー河野駿佑加入。新たな時代に挑むLM corsa

 2020年のスーパーGT開幕に向け、2月25日にはGTアソシエイションからエントリーリストが発表されるなど、多くのチーム体制・ドライバーが明らかにされた。そのなかでも話題のひとつと言えるのが、ミシュランを採用するLM corsaだ。またチームには、スーパーGTデビューとなる河野駿佑も加入。すでにテストに臨んでいる。

 大阪トヨペットグループのモータースポーツ活動のひとつとしてスーパーGTに挑戦しているLM corsaは、2019年第6戦オートポリスで念願の優勝を遂げ、レクサスRC F GT3の開発から携わってきた吉本大樹の涙は大きな感動を呼んだ。

 そんなLM corsaは、2020年に向け変革のときを迎えた。タイヤはミシュランに変更され、GT500に移った宮田莉朋に代わり、河野がチームに加入した。LM corsaは2018年までヨコハマ、2019年はダンロップ、そして今季はミシュランと、3年で3種類のタイヤを履くことになる。

 2月20日から鈴鹿サーキットで行われたテストは、LM corsaにとってミシュラン初装着、そして河野の初テストとなった。まずはステアリングを握った吉本に、ミシュランの評価を聞いた。

「初めての組み合わせなので、まだまだこれから探っていかなければいけませんが、今のところ良い点、悪い点はありますね。良い点としては、高荷重のときのマッチングがすごくいいです。逆に、低荷重のときは課題があります」と吉本。

「もちろん昨年もそうでしたが、タイヤが変わるとセットアップももちろん変わるので、バランスを詰めていかなければなりません。今までのデータもほぼ使えなくなりますし、フィーリングも変わってきますが、逆に僕たちは3メーカーを履いているので、良い部分も悪い部分も把握できるのが強みですね」

ミシュランを初めて履きテストに臨んだSYNTIUM LMcorsa RC F GT3の吉本大樹
ミシュランを履いてコースインするSYNTIUM LMcorsa RC F GT3

■auto sport web Sprint Cupでつかんだチャンス

 そしてこの鈴鹿テストで、初めてのテストをこなしたのは河野だ。2017年まで参戦したFIA-F4を経て、2018年からは全日本F3選手権に挑戦してきた。スーパーGTは今季デビューとなるが、GOODSMILE RACING & Team UKYOのファンからは『シュン君』と呼ばれるお馴染みの存在だ。

 グッドスマイル 初音ミク AMGのメンテナンスを行うRSファインの河野高男エンジニアの息子であり、それこそ『サーキット歴=実年齢』というほど幼少からサーキットに通っている。ドライバーとしてステップアップする一方、GOODSMILE RACING & Team UKYOではメカニックやデータエンジニアも務めてきた。

 今回のチャンスを得たのは、じつは2019年にスーパーGT×DTM特別交流戦で行われたauto sport web Sprint Cupがきっかけだった。先にLM corsa内でフェラーリを走らせることが決まり、メンテナンスをかつてスーパー耐久でHubAutoカラーの488を走らせてたRSファインに依頼することになったが、そこで河野に白羽の矢が立った。レースではアグレッシブな戦いをみせたことから、何人かいた2020年のドライバー候補のなかで、河野がチャンスを得ることになったのだ。

「ラッキーですよね。Sprint Cupで今まであまり見たことがないようなアグレッシブな走りもみせてくれたので、評価を上げました。他に候補もいたのですが、結果的にチャンスを掴みましたから」というのは吉本。

「でも、そういうものだと思うんです。僕もそうやってギリギリのところでやってきましたから。このチャンスを活かしてほしいですよね」

 またこの日、河野の走りを見守った吉本は、「あまり心配はしていません」と評している。

「F3に乗っているということはダウンフォースの扱いを分かっていますからね。たとえば、昨年からLEON PYRAMID AMGに乗った(菅波)冬悟なんかは、ダウンフォースの扱い方の面で、速いコーナーがイケていないと昨年も本人が言っていました。でも駿佑はハイダウンフォースを使う走らせ方は問題ないと思います」

「どちらかというと問題は、彼のこれまでのレースにも現れていますけど、大人しい性格ですよね。スーパーGTでは上がってナンボなのでそれは大事にしつつも、勝負強さはみせてほしいですね」

走行後ピットで話し込む河野と吉本
スーパーGTドライバーとして初テストに臨んだ河野駿佑

■「チャンスでもあればピンチでもある」初年度に意気込む河野

 2020年に入ってからオファーもらったという河野は「鈴鹿で実際に乗るまでもそうでしたが、半分夢のなかのような気持ちでした。TOYOTA GAZOO Racingからの最初の発表を見るまでは、嬉しい気持ちもありますが、どこかフワフワしたような感じでしたね」とシート獲得からの気持ちを教えてくれた。先述のように、幼少期からスーパーGTが身近なカテゴリーだった河野にとって、ドライバーとしてのデビューが決まった喜びはひとしおだった様子だ。

「OTGさんはある意味、以前からお付き合いをさせていただいていましたし、メカニックさんも代表も、監督の飯田章さんも、吉本さんもスーパー耐久の頃から一緒にやらせてもらっていました。特別『はじめまして』という印象もなくて、フレンドリーに優しく迎えてくださったと思います。(目の前で取材を聞いていた吉本を見て)ちょっとコワい先輩がいますが(笑)、いい雰囲気です」

 鈴鹿テストでは、ユーズドのタイヤで少しずつ慣れつつ、さっそくロングランを行うなど積極的にレクサスRC F GT3のフィーリングを確認した。

「今まで何台かGT3カーに乗ってきましたが、レクサスRC F GT3は初めてです。事前にこれまでの車載映像も見せてもらっていましたが、少し自分のイメージとずれている部分もありつつも、高速コーナーではすごく乗りやすい印象でしたね」と河野は語った。

 とはいえ、シート獲得の喜びにひたり、開幕に向けてゆっくり慣れていっている時間もない。特に、2019年のLM corsaは初勝利の喜びを知った。さらに否応なく、河野は宮田と比較されることになる。しかし河野は、今季のレギュラーシートを前向きにとらえる。

「今回、このパッケージで初めてテストをさせていただきましたが、昨年1勝を飾り、auto sport web Sprint Cupでも勝ったチームですからね。何より、莉朋の後に入るのは、ある意味チャンスでもあればピンチでもあると思っています。ここでいい走りができれば評価にも繋がると思います」

「今季、新しいパッケージになって勝たないわけにはいかないと思いますし、去年1勝のところを2勝でも3勝でもできればと思っています。もちろんスーパーGTはそんなに甘くないレースなのは分かっていますが、チャンピオンをかけて戦うチームなので、シーズン終盤までタイトル争いできるところにいられればと思っています」

 ミシュラン、そして河野という新たな血を加え、2020年のスーパーGTに挑むLM corsa。今季は激戦のGT300で、どんなドラマをみせてくれるだろうか。

河野のピットボックス「ピタッとストップ選手権」のため動画を撮る吉本。この後どうなったかは吉本のTwitter(@YoshimotoHiroki)まで。

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