「僕は恵まれている」阪神・西勇輝が手にした菅野、ダルビッシュらの“エース道”

阪神・西勇輝【写真:荒川祐史】

飽くなき向上心を持ちながらも「高望みはせず、自分の姿を客観視すること」

 阪神のエースとして今シーズン自身2度目の開幕投手を務める西勇輝。熱狂的なファンからは賛辞を浴びることもあれば、容赦ないヤジも乱れ飛ぶ。大観衆の視線を浴びるマウンドでも常に冷静沈着、自らを失うことなくチームの勝利に向け腕を振る。

 飛びぬけた球威こそないが抜群の制球力、打者との駆け引きでここまで84勝(73敗)をマーク。オリックス、阪神で先発ローテを守り続けてきた右腕の成長過程には日本を代表する“エース”たちの金言があった。

 毎シーズン進化を求め、向上心を絶やさない西勇だが「高望みはせず、自分の姿を客観視することができている。身の丈にあってないことをやってはダメだと思う」と語る。150キロを超すストレート、驚く程の変化球は誰しもが投げられる訳ではない。自身の肉体、投球フォームを知り、その中でトップレベルの技術を磨いていくことが大事だと口にする。

 プロ入り直後はオリックスのエースだった金子千尋(現・弌大)の投球に目を奪われた。沢村賞も獲得した右腕からは「練習の内容は細かく、自分がやるべきことをしっかりやること。そして立ち振る舞いは全ての人が見ている」と、投球以前にプロ野球選手としての一番必要なことを学んだ。

巨人菅野、ダルビッシュ、前田、金子ら球界を代表するエースたちからの言葉

 昨年のオフまで共に自主トレを行っていた巨人・菅野智之からは向上心の大切さを知った。

「常に意識は高いところに目標を持つこと。目標を高く持つ選手はそこが下がっても高い位置にいる」

 自信を持ってマウンドに上がる術はダルビッシュ有(カブス)、長いシーズンを戦い抜くメンタルは前田健太(ツインズ)から得ることができた。

「1週間のトレーニングを1日でも抜いたら、どのメニューでもその登板に不安になる。だから抜かずに練習することで不安なく投げることができる」

「1年間投げてれば、トータルで見れば先にどれだけ負けてようがトントンになる。勝ってたら負けが来るときは来る。気持ちを切らさずに1年間平常心で投げ続けた方がいい」

 球界のトップに立つ“エース”たちの言葉の一つ一つが胸に響いた。自らを「泥臭く生きてきた」と表現する西勇は「人それぞれ、考え方は違うが根本は同じ。これまで色々な方に話しを聞ける機会があった。古い練習、新しいやり方がいいのかはやってみないと分からない。そんな中で一つのアドバイスで気づかせてくれたのは先輩たち。僕は本当に恵まれてる」と感謝を口にする。

 今年で12年目のシーズンを迎えるが自身の立場も理解している。「周りを指導するのって難しい、けど指導しないといけない立場っていうのも分かってる。中堅世代が若手、ベテランを引っ張っていける存在になるべきだと思っている。ベテランの負担も減るし、若手も委縮せずに。いい橋渡し役になれればいい」。

 移籍2年目で大役を任された背番号「16」。自身最多となる180イニングを目標に掲げる右腕が虎の投手陣を引っ張っていく。(橋本健吾 / Kengo Hashimoto)

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