オリックス「超大型助っ人」アダム・ジョーンズの成功条件は? 2つのカギと、一抹の不安

4度のゴールドグラブ賞に、5回のオールスターゲーム選出。現役バリバリのメジャーリーガー。球団の助っ人史上最高額の3年で最大17億円の超大型契約。今オフ、オリックス・バファローズが獲得したアダム・ジョーンズを表現する言葉は枚挙にいとまがない。
これまでにも日本野球界に鳴り物入りで来日した助っ人外国人は大勢いたが、前評判通りに活躍できた選手ばかりではなかったのが現実だ。果たしてアダム・ジョーンズは成功できるだろうか? 2つのキーポイントと、不安要素を考察したい。

(文=花田雪、写真=Getty Images)

正真正銘、現役バリバリのメジャーリーガーにファン、メディアも大注目

2月1日から27日まで宮崎県・清武総合運動公園で行われたオリックス・バファローズの春季キャンプは、例年に比べて活気づいて見えた。

昨季は3年ぶりとなるリーグ最下位に終わるなど、5年連続でBクラスに低迷。チームとしては結果が出ているとは言い難い。

それでも多くのファン、メディアがオリックスのキャンプ地を訪れたのにはいくつか理由がある。

一つは山岡泰輔、山本由伸、吉田正尚といった、東京五輪出場も期待されるスター選手の存在。チーム成績は振るわなかったが、人気・実力を兼ね備えた彼らの姿を一目見ようと、多くの観客がSOKKENスタジアムを訪れた。

また、彼ら以外にも榊原翼、若月健矢、福田周平、西浦颯大、小田裕也といった女性人気の高い選手が多いのもキャンプの集客に一役買ったはずだ。

しかし、今季のオリックスには彼らを凌ぐほどの注目を集める選手がいる。

それが、アダム・ジョーンズだ。

メジャー通算1939安打、282本塁打を誇り、昨季もアリゾナ・ダイヤモンドバックスで137試合に出場、打率.260、16本塁打を記録。オールスター出場5回、ゴールドグラブ賞4回の正真正銘のスーパースターだ。

現役バリバリのメジャーリーガーの加入は大きな話題を呼び、キャンプ地の売店には新外国人選手としては異例の「アダム・ジョーンズ コーナー」まで設置されていた。

練習中も、ジョーンズの一挙手一投足をメディアが追いかけ、彼が動くとカメラが動く……そんな現象も見られた。

すでに注目度は抜群。次に気になるのは当然、「ジョーンズは日本でも活躍できるのか?」だろう。

日本球界には「現役メジャーリーガー」の触れ込みで来日した選手が過去にも大勢いた。前評判通りの活躍を見せる選手もいれば、期待とは程遠い成績で日本を去った選手もいる。

果たしてジョーンズは前者か、後者か――。

技術面、精神面ともに盤石、日本でも活躍の可能性は高い?

ジョーンズに限ったことではないが、助っ人外国人が活躍できるかのカギを握るのは、「技術力」と「精神面」にある。

技術力については、すでにメジャーでも実績を残しているだけあって、基本的には問題ないはずだ。ただ、「メジャーでは通用しても、日本では通用しない」ケースも確かにある。

まだそれほど実戦を積んでいない段階ではあるが、少なくともキャンプでのプレーぶりを見る限り、ジョーンズの打撃技術は「日本向き」と考えてよさそうだ。

特にキャンプ序盤、フリー打撃で見せたアプローチは見事だった。バットの軌道はいわゆる理想的な「インサイドアウト」。パワー自慢でぶんぶん振り回すようなことはなく、打球のほとんどがセンターからライト方向に飛んでいた。しかも、ライナー性、フライ性の打球がほとんどだ。バットの軌道とスイングスピードの速さも相まって、始動もかなり遅い。打撃練習を見ていても「見送るかな」と思ったタイミングからバットが出て、しっかりと右中間方向に鋭い打球を飛ばす。

メジャー通算打率.277に対して出塁率は.317と、四球の割合はかなり少ないが、これは「選球眼が悪い」というよりは「早いカウントから積極的に打ちにいくタイプ」だから。

少なくとも、練習を見る限りは助っ人外国人が陥りやすい「ボール球を振らされる」ということはなさそうだ。

年齢的には今年で35歳と決して若くはないが、「ピークを過ぎた大ベテラン」というわけではない。ここ数年は全盛期から比べると成績が落ちているのも事実だが、順当にいけば大崩れはしないだろう。

技術面では手応えを感じさせるパフォーマンスを見せているジョーンズだが、気になるのは精神面だろう。過去、日本で活躍できなかった大物助っ人選手のほとんどが、この「精神面」で壁にぶち当たった。

「日本の雰囲気になじめない」
「ホームシックにかかる」
「そもそも、日本の野球のレベルを下に見ている」

理由はいくらでもある。

しかし、ジョーンズはキャンプイン前日の合同自主トレにも自ら希望して参加するなど、日本の野球に積極的に溶け込もうとする姿勢を見せている。

入団会見時には「自分はメジャーリーグでの経験もあるのでオープンブック(つねに本を開いた状態)でいたいと思います。なので、いつでも質問してもらいたいです」と、自らの経験をチームに落とし込もうとする姿勢まで示した。キャンプ終盤には吉田正尚選手のInstagramで他の外国人選手たちと食事をする光景がアップされるなど、チームメイトとのコミュニケーションも順調のようだ。

「技術面」と「精神面」ともに盤石で、日本球界での成功確率はかなり高いといえる――。

と、筆者もキャンプ中盤まではそう考えていた。しかし、ここにきて大きな懸念材料が生まれてしまった。

新型コロナによる影響は無視できない

それが、日本中で猛威を振るう新型肺炎だ。
ご存じの通り、NPBは開幕前のオープン戦を無観客で行うことを決定。順当に行けば3月20日にセ・パともに開幕を迎えることとなるが、予断は許さない状況だ。

実はジョーンズは妻と二人の子どもをアメリカに残して来日している。当初の予定では3月には家族も来日し、共に生活をする予定だったという。日本でのプレーを選んだ理由の一つに「妻と海外で暮らしたいと話をしていた」こともあり、本来であれば家族からも万全のサポートを受けてプレーできるはずだった。

現時点でジョーンズの家族の来日予定がどうなったかは情報が入っていないが、少なくとも3月の来日は考えにくいだろう。状況が改善される見込みも立たない今、しばらくは家族と離れたまま日本でプレーすることになりそうだ。

となると、気になるのが「ホームシック」だ。家族と共に、新しい国で第二の野球人生を送ろうと考えていたであろうジョーンズ一家を襲った突然の事態。

2011年に東日本大震災が起きた時も、地震や原発事故への不安から開幕前に帰国した外国人選手が複数名いた。

今回の新型肺炎もまた、状況次第では外国人選手の動向に大きく影響を及ぼす可能性がある。ジョーンズも、例外ではない。

開幕まで1カ月を切りながら、予断を許さない状況が続く今季のプロ野球。

「新型肺炎問題」は、球界にも今以上の大きな影響を与えるかもしれない。

<了>

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