芸術触れる機会つくりたい 長崎出身の若手美術家 武内優記さん 故郷での経験 作品に

武内さんが溶かした錫を波にまいて制作した「HOHLFORM」

 「『偶然』を生かして創作する。それが私のスタイル」-。長崎市出身の武内優記さん(34)=東京都在住=は、偶然性を取り入れた立体作品や、制作過程を記録した映像作品などで注目を集める若手美術家だ。2月末、故郷長崎では初めて作品を披露した。「長崎の人が少しでも芸術に触れることができる機会をつくっていきたい」と話す。

 武内さんは、県立長崎南高時代、サッカー部に所属。SF映画などの特殊メークに興味があったことから、美術大学への進学を決意。美術とほとんど無縁だったため、夏休みごろから美術大学進学専門の塾に通い、デッサンなどを学んだ。
 現役で金沢美術工芸大に合格し、彫刻を専攻。次第に芸術作品の「格好良さ」にひかれ、特殊メークではなく、美術家としての道を歩むことに決めた。
 美術の探究と環境の変化を求め、同大卒業後は東京芸大大学院へ。映像やインスタレーション、ウェブ上での美術作品など彫刻制作の枠を広げていった。2015年、「吉野石膏美術振興財団在外研修助成」の対象者に選ばれ、ドイツのベルリンで約1年間制作活動。同年、群馬青年ビエンナーレで入選した。19年には、東京芸術大の大学美術館で開かれた展覧会「美術教育の森」の企画・運営を担った。全国各地の展覧会でも出品を続けている。
 武内さんは、作品に「自然(偶然)」を融合。自然の中で制作するなどして、想像を超える偶然の表現を生み出す。その一つが、2月に長崎市の浜屋百貨店8階美術ギャラリーで開かれた「新鋭作家三人展」で並べた「HOHLFORM」(17年)。同年に台風18号が関東に接近した際、千葉県の犬吠埼の海岸で制作した。
 暴風、豪雨の中、バーナーで熱した鍋に錫(すず)を入れて溶かし、押し寄せる波に向かってまいた。すぐに凝固し海辺に打ち寄せた錫を拾い集めた。波がつくった複雑な形状の「彫刻」だ。
 同作品を構想したきっかけは故郷だった。実家は長崎港近くで、海を見て育った。毎年のように台風が接近したり直撃したり。幼い頃は実家が大きな被害を受けた。「自然はときには災害として生活を脅かし、ときには私たちを癒やし、心地よくしてくれる。長崎での体験を通して、まだ見ていない自然の側面に触れ、つくるという新しい発見をしたかった」と作品に込めた思いを語る。
 現在は、東京芸術大大学院美術研究科美術教育の助教。偶然を生かした作品のほか、見る角度によって絵柄が変化する印刷物「レンチキュラー」を活用した「3次元の芸術作品」も手掛ける。
 「美術は生きる力になる。そして国語、数学、生物など学校で習う全ての教科が、美術をするためには必要と感じている。いつか故郷で子どもたちに美術の面白さや魅力を伝えることができればうれしい」と話す。

「長崎で芸術に触れることができる機会をつくりたい」と語る武内さん=長崎市浜町、浜屋百貨店8階美術ギャラリー

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