新型コロナウイルスの治療薬開発:ギリアド「レムデシビル」モデルナ「mRNA-1273」が牽引

By 前田静吾

いまや世界的な大流行の兆しが見えている新型コロナウイルスの猛威に対して世界中の製薬、バイオ企業からの治療薬開発への取り組みのニュースが熱意を持って発表されている。この中でも、ギリアド社のCOVID-19 治療薬候補「remdesivir 」とモデルナ社のmRNAベースのワクチン(mRNA-1273)が新型コロナウイルスに対する治療薬としての期待を含め開発市場を牽引している。

新型コロナウイルス治療を対象とした臨床試験の開始

モデルナ社は、2月24日、新型コロナウイルス予防の臨床試験実施のために、米国立アレルギー感染症研究所(NIAID)に対してmRNA-1273の治験薬を出荷したと発表した。

同社は新型コロナウイルスのゲノム情報を解読、公表後にワクチンを設計し、治験薬を42日で製造し、高度にカスタマイズ可能で迅速に多くの量の治験薬を生産する手段としてのRNAの有用性を強調している。また、マサチューセッツ州ノーウッドでの製造工場での生産規模と能力に関しても言及、第1相が実施されれば、新型コロナウイルスのワクチンの臨床試験としては世界初になる。

同じように、NIAIDからの協力を得ているギリアドサイエンス社も新コロナウイルスに対する治療候補薬の臨床試験を開始している。かつてエボラやマールブルグウイルスの治療として開発もその用をなさなくなった抗ウイルス薬Remdesivir(レムデシビル)が有望視されている。

2月6日のChina Dailyの報道によると2月初旬に中国湖北省武漢において761人の患者を対象にして2つの第3相の臨床試験を開始している。また、中国での治験に加えて米国においても臨床試験の開始も発表している。現在のところ酸素投与が必要であった患者が回復したとの改善例の報告が発表されているがこれは患者1人の臨床例でしかない。

今週、ギリアド社のレムデシビルへの研究に対してWHO(世界保健機関)から大きな支持を得ました。WHOは記者会見で、レムデシビルが「本当の効能がある唯一の薬剤であると思う」と述べました。

ギリアド社は新型コロナウイルス治療を対象としてレムデシビルの2つの試験を中国で実施しています。1つは軽度または中程度の COVID-19呼吸器疾患の患者、もう1つは重度のCOVID-19呼吸器疾患の患者を対象として、4月には結果を発表できると予想している。

果たして治療に結びつく治療薬は?

新型コロナウイルスの治療に関して、短期的な治療に結びつく可能性がほとんどない企業が自社の抗ウイルス製品について幅広い声明を発表することで自社の株価の上昇への試みにすぎないと見なされていました。

しかし、そのような短期的で、効果が無い発表がなされる中でも確実に新コロナウイルスの治療にできるだけ早く、効果的に結びつける可能性の高い治療薬の発表、臨床試験が開始されているのも事実であり、大きな熱量と勢いをもって進められている。

COVID-19の原因となるSARS-CoV-2ウイルスが2019年12月に出現して以来、迅速なウイルスの結晶構造やSARS-CoV-2のゲノム配列の解明と公開など、治療、予防、緩和を目的として、すでに大きな研究投資がなされている。

ギリアド社やジョンソン・エンド・ジョンソン社などの企業は、関連する病原体に対する活性を持つ抗ウイルス薬の低分子ライブラリーを活用することができます。

これまでの研究から、新型コロナウイルスは、ウイルス表面のスパイク蛋白質が、ヒト細胞上のアンジオテンシン変換酵素II(ACE2)受容体に結合し、エンドソームに輸送された後、膜融合を起こしてヒトの細胞質内へ侵入、感染すると考えられている。

新型コロナウイルスの感染防御抗原であるスパイク蛋白質をコードする遺伝子ワクチンを作製し感染防御効果を示すワクチンの作成が焦点となっている。

Modernaのワクチン候補は、免疫を刺激することが期待されるスパイクタンパク質をモデルにした抗原をエンコードしています。同様に、Regeneron Pharmaceuticals、Vir Biotechnology、およびSanofiによる新規抗体はすべて、スパイクタンパク質を標的としています。

治療薬、ワクチン、スピードとの戦い

新しい治療法ではスピードが重要であり、感染症を治療する候補薬は、予防ワクチンよりも有効性が証明されるまでの時間が短時間で済みます。エボラ出血熱、SARS、MERS、またはHIVでの以前の臨床から得られた安全性データのパッケージとともに効果を調べることが出来ます。ギリアド社のレムデシビル、タミフル、またはHIVプロテアーゼ 阻害剤であるダルナビルのような治療候補薬に利点を与えるとも言えます。

2月25日に行われた記者会見で、NIAIDディレクターのAnthony Fauci氏は、Modernaのようなワクチンアプローチの有効性を判断するには、「ロケットのような速度で進んでも」第1相臨床試験にも3~4か月、判断までには約1年半はかかるとしている。そのため、レムデシビルの臨床試験は「妥当な期間内に回答が得られる可能性がある」と述べている。

多くの第I相臨床試験の開発品グループから成功を果たした候補品は、すぐに第II相開発を継続するかどうかの判断をしなければなりません。これはその時点での世界におけるパンデミックの度合いとNIAIDのような研究期間による資金の動きも大きな要素になるでしょう。

緊急を盾に中国での知的財産保護がおざなりに?

新型コロナウイルスが発生、その後のバイオ医薬品業界からの熱量の高さは非常に印象的で迅速なものでした。しかしながら、現時点ではそのような熱量がポジティブな結果と影響に実際に結びつくかどうかは未だに明らかではありません。

特にギリアド社は、治療薬の製造に多額の投資を行う用意があることを発表しています。Morgan Stanleyのアナリストは、同社にとって持続可能な最高の利益は、実際の売り上げではなく、高い評判が得られることであると述べています。

今回の中国発の新型コロナウイルスに対する治療薬へのニーズの高まりゆえに、中国企業のBrightGeneがレムデシビルの大量製造をする能力があることを発表している。特許で保護されている薬を無断で大量生産するのは異例であり、中国での知的財産保護の危うさが心配されます。

Remdesivirを巡る中国内での不穏な動きは他にもあり、SARS-CoV-2感染症流行の中心地・武漢市を拠点とする中国国営研究機関Wuhan Institute of Virologyが同剤によるその治療の特許を申請しています。ギリアドの経営陣は、レムデシビルの特許紛争に巻き込まれていることに対しすでに無関心を表明しています。

Insights4 Pharma 前田静吾

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