ディーゼル+プラグインハイブリッドのマリアージュ|メルセデス・ベンツ E350de試乗レポート

メルセデス・ベンツ E350de

プレミアムセグメントならではの組み合わせ

かつて国産メーカーの技術者に、ハイブリッド車の内燃機関をなぜディーゼルにしないのか? と尋ねたことがあった。その回答を端的に言えば、ただでさえガソリンエンジンよりも高額になるディーゼルユニットにハイブリッドを組み合わせることによる「コストの高騰」がひとつ。そしてモーターによって補える低中速トルクの向上は、ディーゼルユニットと特性が被るからあまり得策ではない、という説明が返ってきたのを覚えている。

ただしそれは、いわゆるスタンダードセグメントでの話。ことメルセデスのようなプレミアムブランドにおいては、その組み合わせは当然視野に入っていたはずである。

そしてこのたびメルセデスは、遂に日本初(2019年10月時点・メルセデス調べ)となるクリーン・ディーゼルのプラグインハイブリッド搭載モデル、E350deを登場させてきた。

3リッターV6ツインターボを上回るトルクの持ち主

メルセデス・ベンツ E350de

その概要を説明すると、内燃機関に用いるのはE200にも搭載される2リッターの直列4気筒ディーゼルターボ。その最高出力は194PS/3800rpm、最大トルクは400Nm/1600~2800rpmと、エンジン単体でも十分に魅力的な数字となっている。

メルセデス・ベンツ E350de

ここに組み合わされるのは90kW(122PS)/440Nmの最高出力/最大トルクを持つモーターシステム。そしてふたつのパワーユニットがもたらすシステム出力は、じつに306PS/700Nmにも及ぶ。これは3リッターV6ツインターボを搭載するE450 4MATIC エクスクルーシブ(367PS/500Nm)を、トルクで上回る数値である。

メルセデス・ベンツ E350de

ただひたすらに快適な乗り味を享受すればいい

そんなE350deを実際に走らせてみると、しかしこれが実に柔和なセダンであるとわかる。Sクラスほどのどっしりとした重厚感や威厳はないが、そのぶん軽やかな身のこなしがEクラスのキャラクターを一層際立たせていた。

まず走り出しで選んだのは、システム制御のデフォルトとなるであろう「ハイブリッド」モード。この他にE350deは電池の消費を抑える「Eセーブ」、充電を行う「Eチャージ」、モーターのみで走る「E」モードと、合計4つの走行モードを持っている。

最大トルク値700Nmと聞けば思わず身構えてしまうところだが、その走り出しは驚くほどに穏やかだった。トルクの出力特性は極めてジェントルであり、普通にアクセルを踏み出す限り、いきなり最大トルクがドカン! と炸裂するようなことはない。

耳を澄ましてもディーゼルユニットのカタカタ音などは当然車内には入ってこないし、モーターのアシストを意識させるようなそぶりもない。両者の切り替わりやミクスチャーを悟らせないパワーユニットの躾けはジャーナリスト泣かせだが、それこそがプレミアムブランドのハイブリッド。オーナーはただひたすらに、快適な乗り味を享受すればよいのである。

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低速域での静粛性は、速度が乗るほどに気持ちよさへと変換されて行った。

サスペンションは路面からの入力をいなし、フロアが低級振動やロードノイズを巧みに減衰。その様子には、パワートレインとの統一感がある。

コーナーでは直列4気筒の軽さが効いているようで、鼻先がスムーズに入って行く。そのロール感を「Sports」と呼ぶにはやや上質に過ぎるけれど、しなやかな足回りは路面を確実に捕らえるから、操作に対してクルマの動きは忠実。ハンドルから伝わるインフォメーションは、とても豊かである。

メルセデス・ベンツ E350de
メルセデス・ベンツ E350de

後輪駆動のお手本といえる上質な走り

そしてコーナーの出口に向かうに従ってアクセルを徐々に踏み足して行くと、じわりと後ろから押し出される感覚が強くなって行く。

ドライビングモードは「コンフォート」「スポーツ」「スポーツ+」「エコ」、そしてオーナーの好みを設定できる「インディビジュアル」が便宜上設定されている。しかしスポーツ以上のモードに劇的な変化は感じられず、まじめに走らせてもコンフォートモードがベストマッチングだった。

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トランク容量を通常の540Lから370Lへと狭めてしまった大型バッテリーの搭載も、ハンドリングに悪影響を及ぼしてはいない。むしろそのボディバランスは良好で、FR車のお手本といえる上質な走りを久々に味わうことができた。

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市街地走行に適したEVモード

こうした走りを堪能したあとに、EVモードを確認してみた。

そこで初めて気づくのは、これまでも十分静かであると思っていたハイブリッドモード以上に、その静粛性がひときわ高まること。そしてこの静けさには乗り手も大きく影響するようで、アクセルの踏み方さえもが、自然と紳士的になってしまうことだった。

モーターの最大トルク値は400Nmと最大値の6割弱だが、その出力特性が内燃機関に比べ遙かにリニアなため、その動きに緩慢さや退屈さは感じられない。むしろ市街地走行には適した特性であり、早朝の出発や深夜の帰宅ではこのEVモードが活躍すると容易に予想できた。

メルセデス・ベンツ E350de

ちなみにEVモードでアクセルを踏みつけると、クルマ側からは「インテリジェントアクセルペダル」がエンジンの始動を知らせてくる。プレッシャーポイント機能によって、アクセルペダルの抵抗が増すのである。

こういう措置からもメルセデスのEVモードは、静かに優しく走ることが前提だということがわかる。そんなEV走行での航続可能距離は、WLTCモードで50km。これを全て額面通りに受け入れるわけには行かないが、満充電なら少なくとも近場の移動や、日々の買い物は十分にこなせるだろう。

メルセデス・ベンツ E350de

またこのプラグインハイブリッドは急速充電に対応していないが、専用の200V充電機を使えば1.5時間、家庭用100V電源でも5時間でフルチャージが可能となる。さらにE350de購入者には、メルセデス・ベンツから交流普通充電機器が無償提供され、家庭用充電ユニットの設置を希望する場合は10万円のサポートが受けられる。

極めて優等生で渋好みな1台

メルセデス・ベンツ E350de

そのパワー感に押しつけがましさはなく、ディーゼルとハイブリッドの特性も欲張りにいいとこ取りができている。若々しさという点では刺激に欠けるのも事実だが、かつてEクラスが持っていたこの役目がいまやSUVに受け継がれていると考えれば、それも納得が行く。Sクラスよりもアンダーステイトメントな見た目や価格を含めてE350deは、極めて優等生なプレミアムセダン。そして渋好みな一台だ。

[筆者/山田 弘樹]

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