楽天創設の経験を生かして琉球へ 田尾安志氏だからできる球団拡張の現実化

琉球・田尾安志シニアディレクター兼打撃総合コーチ【写真:新保友映】

2019年沖縄に誕生した琉球ブルーオーシャンズの目指すところとは?

 将来、NPBが所属球団を増やす場合の加入を目標にして、2019年沖縄に誕生したプロ野球球団「琉球ブルーオーシャンズ」。楽天の時と同様に球団の創設に携わるのは、田尾安志シニアディレクター兼打撃総合コーチ。楽天の初代監督も務めた田尾さんに、どのリーグにも属さず、沖縄に1球団だけというこの球団の可能性や野球界に与える影響はどんなものなのか、そしてNPB参入への意欲を伺った。

 田尾さんが楽天の監督に就任することが決まった時、私はニッポン放送で同じ番組に携わっており、当時の苦労や面白さなどを近いところで聞かせてもらっていた。今回、再び田尾さんが球団の立ち上げに関わることになり、そのチームは独立リーグに属さない、沖縄のチーム。1チームだけでどうやって試合をしていくのか、今後どんなことを考えているのか、チームの魅力は?様々なことを直接聞いてみたいと、チームがキャンプを張る沖縄へ
と飛んだ。

 迎えてくれた田尾さんはジャケット姿で、それは解説者の時と変わらなかったが、顔は日焼けし、一目見ただけで充実感にあふれていた。その充実感の根底には、ブルーオーシャンズが自分のこれまでできなかったことが実現できるチームであること、そして、野球底辺の拡大につながる構想があった。

 これまでできなかったことができる――。一年を通して、温暖な環境で一年中、野球をすること。各球団のスカウトが2月には確実に沖縄に集まり選手も見られているという意識を持てるし、NPBと近い関係性が保てる。チームがどこにもリーグに属さないため、ルールや決まりに縛られない柔軟性があることだと言う。

 これらのメリットを生かしながら、近い将来は沖縄でウインターリーグを開催も目指す。「そこにNPBのファームの選手から社会人をはじめとするアマチュア選手、台湾、韓国、中国、オーストラリアなど、各国から来てもらって冬の戦いをしたいんですよ」。

 アイディアがどんどん湧き出てくる。NPBのファームや3軍の選手に、ブルーオーシャンズの中に入って練習や試合をしてもらいたいし、他の国や地域のリーグやチームに上手く活用してもらいたいという考えもある。

楽天の経験を生かす新球団でのディレクション、05年は歴史的大敗

 実際にキャンプ中、中国の北京タイガースと合同トレーニングをした際、お互い刺激を受けることができて良かったという声が選手からも上がった。「決まりに縛られずどちらにもプラスのある動きをしていけるのがこのチームの魅力」と田尾さんは笑顔で語った。

 チーム力の底上げ、人材の確保……。それができれば、NPB球団にも負けない強いチームが作れるはず。いつか、NPBが球団拡張をした時に、自信を持って加入ができる。そんな意欲が伝わってきた。田尾さんは、ただ単に「拡大をするだけでは意味がない」ということもはっきりと口にする、楽天の創設時の経験かあるからだ。

 2014年に起きた近鉄、オリックスの合併による球団再編問題。当時、用いられたのは分配ドラフト方式で、オリックスが25人の選手を合併前のオリックス・旧近鉄選手の中から優先的に確保。それ以外の選手をオリックスと楽天が交互に指名していった。

 自由契約だった山崎武司選手や関川浩一選手、当時、近鉄のエースだった岩隈久志投手(現・巨人)を金銭トレードで獲得するなど、整備をしたが、ロッテとの開幕2戦目は0-26という歴史的な大敗。創設1年目は38勝97敗1分け。5位の日本ハムに25ゲーム差をつけられた。新規参入の難しさを露呈した。

 今でこそ、日本一を経験するなど、人気球団のひとつになったが、あの苦い経験を無駄にしないためにも、田尾さんは立ち上がる。

「『うちさえよければいい』という小さい考えでは、プロ野球界は発展しない。全球団の協力が必要なんです」

3軍の巨人が試合を実施、王会長は「16球団構想」、阪神や中日はボールを提供

 野球を愛するファンにはレベルの高い、面白い戦いを見せなければいけない。選手にもきちんとした野球に打ち込める状況を整えないといけない。“その時”が来ることを信じて、しっかりと環境面、戦力面で準備を進めていく。これらの夢を叶えるためにも、田尾さんの今シーズンの目標は、今いる琉球ブルーオーシャンズの選手の中から最低1人はNPBに入ってもらうことだ。そうすればチーム力の高さが証明できるし、有望な若手選手もブルーオーシャンズに入ってくる。

 NPBとも少しづつではあるが協力体制ができつつあり、3軍を持つ巨人が試合を実施してくれたり、ソフトバンクの王貞治球団会長も「16球団構想」を改めてマスコミに話してくれたり、阪神や中日はボールを提供してくれたりと、様々な後押しをしてもらっていると感謝する。

「現場で指導をしながら、解説の仕事でNPBの球団を見てまわると、これまでは感じなかった差が見えてきて、やるべきこともさらに分かってきてとても面白いですよ」

 現在の田尾さんの肩書は、シニアディレクター兼打撃総合コーチ。球団創設の構想が発表された時は、エグゼクティブアドバイザーだった。解説の仕事もあるため沖縄に常駐するわけにいかないので申し訳ないと、大きな役職は避けてきたが、球団を作るにあたってそれでは成り立たないということでGMをやりますと自ら申し出た。

 楽天創設時は監督、そして今回はディレクションをする立場。田尾さんの意欲が球界の発展につながっていくだろうと感じた。(新保友映 / Tomoe Shimbo)

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