<隠れた名盤> 吉幾三『涙…止めて』 いつも根底には幸せへの願いがある

吉幾三『涙…止めて』

 2019年末『TSUGARU』『涙…止めて』と2か月連続で1曲(+カラオケ)入りシングルを発表した吉幾三。『TSUGARU』の方は、動画サイトやテレビ、ラジオで大きな話題となり、音楽配信、CDともに週間TOP30入りするヒットとなったが、『涙…止めて』の方はコンサートで絶賛されるも殆ど知られていないので、ここでは後者を中心に紹介したい。

 まず『TSUGARU』は、全編津軽弁で歌われるミディアム調のラップソング。一聴すると「何を言ってるか分からないのがウケる」と評判だが、歌詞をよく読むと、親子の絆や郷土愛が希薄化する現代社会を中年親父が嘆いており、語気の強い歌声が、問題を看過できないと怒っているようにも聞こえてくる。つまり、ふざけているようで、実はとても大切なことを主張しているのだ。

 そして『涙…止めて』の方は、『ここに幸あり』や『世界は二人のために』といった古き時代のムーディーな曲調で、「夢があふれて 平和な日本よ」「涙止めて 国々を越えて」「闇のない星 私は見たい」と、身近な幸せが宇宙全体の未来に繋がることを訴えたドラマティックなバラード。最初は和やかに歌っているが、ラストはオーケストラに合わせて絶唱している点にも引き込まれる。

 曲調が大きく異なる2曲だが、根底にあるのは幸せへの願いで、あらためて筋の通ったシンガーソングライターだと感心した。2作を聴けば、望みを諦める前に、手段や方法を変えて努力したいと思い直せるはず。

(徳間ジャパンコミュニケーションズ・909円+税)=臼井孝

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