あえて飲まない「ソーバーキュリアス」が急増?若者のアルコール離れの価値観とは

これまでも「若者のアルコール離れ」を耳にしたことのある方は多いと思いますが、最近では、この流れはさらに進んでいるようです。毎年、さまざまなテイストのノンアルコール商品が発売されていますし、都心には、ついにノンアルコール専門のバーも登場しました。そこで改めて、データを用いて、今の若者のアルコール離れの状況について見ていきたいと思います。


実は若者だけではない「アルコール離れ」

厚生労働省「国民健康・栄養調査」では、週3日以上、飲酒日1日当たり1合飲酒する場合に、飲酒習慣があるとしています。この「飲酒習慣率」の変化を見ると、1997年と比べて2017年では、男性では全ての年代で、女性では20~30歳代で低下しています(図1)。また、もともと飲酒習慣率の低い20歳代の女性では、2017年の飲酒習慣率はわずか3%となっています。

確かに若者では「アルコール離れ」が見られますが、男性では中高年層でもアルコールを飲まなくなっています。この理由としては、1990年代後半から2010年頃までは景気低迷の中でサラリーマンの会合の機会が減ったこと、また、2008年からメタボ健診(特定健康診査)が開始されたことで健康志向の高まったことなどが考えられます。

若者の半数はアルコールを飲んでいない

次に、飲酒の頻度の変化を見ると、男女とも「毎日飲む」割合が低下し、「ほとんど飲まない(飲めない)」割合が高まっていますが、男性で顕著となっています(図2)。また、飲酒量の多い中高年男性では「毎日飲む」が減って「週1~2日」が増えるなど、飲酒をする場合も頻度が低下している傾向があります。

20歳代では、昔から「ほとんど飲まない(飲めない)」割合が高いのですが、2017年ではさらに増えて、男性の51.0%、女性の61.2%を占めるようになっています。つまり、今の若者のおよそ半数は日頃、ほとんどアルコールを飲んでいないことになります。

若者の4分の1はあえて飲まない「ソーバーキュリアス」

ところで、2017年の調査では「ほとんど飲まない(飲めない)」を「ほとんど飲まない」と「飲まない(飲めない)」に分けて調査をしており、飲まない層についてより詳しい状況が分かります。

飲酒を「やめた」と「ほとんど飲まない」、「飲まない(飲めない)」の3つをあわせた『飲まない』層は、70歳以上も含む全体では男性38.6%、女性70.5%です。このうち「やめた」と「ほとんど飲まない」の2つをあわせた『飲めるけれど、ほとんど飲まない』層は、男性17.0%(飲まない層のうち44.0%)、女性18.2%(同様に25.8%)を占めます。

一方で、20歳代では『飲まない』層は男性51.4%、女性62.1%で、『飲めるけれど、ほとんど飲まない』層は男性28.6%(55.6%)、女性24.7%(39.8%)です(図3)。なお、この『飲めるけれど、ほとんど飲まない』層は、若い年代の方が多い傾向があります。

最近、米国ではミレニアル世代を中心に「ソーバーキュリアス(Sober Curious)」という自分の身体や精神の健康を考えて、あえて飲酒をしないという動きがあるそうです。Soberは「しらふの、酒を飲んでいない、普段酒を飲まない」、Curiousは「好奇心の強い、~したがる」といった意味で、Sober Curiousは「しらふでいたがる」というニュアンスになります。米国ほど意識的なものではないかもしれませんが、今の日本の若者の4分の1程度に「ソーバーキュリアス」傾向があると言えるでしょう。

なぜ「ソーバーキュリアス」がかっこいい?

なぜ、若者では「ソーバーキュリアス」が広がっているのでしょうか。この背景には、ミレニアル世代ならではの価値観の影響があるのでしょう。

ミレニアル世代は物心ついた頃からパソコンやインターネットが普及したデジタルネイティブです。大量の情報に触れながら育っているために、何につけても情報通で、健康や予防医療に関する知識も豊富な傾向があります(浅く広くかもしれませんが)。また、何かを買う時は情報を比較検討し、コストパフォーマンスを重視する傾向も強いです。さらに、技術革新や消費社会の成熟化によって娯楽も多様化しています。

今の若者は、アルコールを飲んで楽しむことは、あまりコスパの良くない娯楽と考えているのかもしれません。酔って楽しむことによるメリットよりも、健康への悪影響や、費やされる時間やお金などのコスト、酔うことによる失敗のリスクなどのデメリットが上回ると判断しているのかもしれません。

「飲みニケーション離れ」だが、職場のコミュニケーションからは離れていない

一方で、若者では職場の「飲み会離れ」や「交流離れ」も生じているのかと言えば、必ずしもそうではないようです。

日本能率協会「2019年度新入社員意識調査」によると、新入社員の上司を交えた飲み会や社内イベントへの参加意向は6割を超えています。あくまでも、「飲みニケーション」から離れているだけであり、職場の「コミュニケーション」から離れているわけではなさそうです。

厳しい就職活動を経て入社している若い世代は、職場では上手くやっていきたいと思う気持ちは強まっているようです。一方で、昔ながらの「とりあえずビール」で乾杯というスタイルや、上司に付き合って朝までコースという飲みニケーションスタイルでは、若者とのコミュニケーションは難しくなっています。一方で、きっかり2時間で終わり、安くても美味しいお店へ連れて行ってくれる上司と過ごす時間は、コスパが良いと判断されるのかもしれません。

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