「めんどうくさかった」 追突事故を起こした男が逃走 裁判であきらかになった“絶対に運転してはいけない人間”の思考回路

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事故が起きたのは時刻は午後9時10分、入院中の実母の見舞いを終えて寺嶋竜蔵(仮名、裁判当時57歳)が車で自宅に帰る途中のことでした。

前方を走っていた車が信号手前で急ブレーキを踏み減速したのです。彼もすぐブレーキを踏みましたが間に合わず、前の車に追突してしまいました。後の捜査で2台の車間距離は約9メートルであったことが判明しています。

よくある事故、とも言えるかもしれません。しかしこの後の対応のまずさが「よくある事故」を刑事事件にしてしまいました。

面倒くさいので逃げた

追突直後、彼は車に乗ったまま相手の車、そして自分の車の状態を確認しました。どちらもあまり壊れているような様子はありません。エアバッグも出ていません。それから後ろを確認しました。他の車は見当たりません。

「これなら大丈夫」

彼はバックで逆走しその場から逃走しました。その時の心情を検察官調書では、

「危険だとは思いました。でも気が動転してて、つい逃げてしまいました」

と供述しています。

そして取り調べでは逃げてしまった理由をもう1つ挙げていました。

「その後の事故対応がめんどくさい」

被告人質問では、彼の態度や考え方の問題点がより浮き彫りになっていました。

――調書では事故の原因を『相手が急ブレーキを踏んだから』って言ってますけど、被害者のせいだと思ってるんですか?

「まあ、それがなければ…。普通に減速してくれればぶつからずに済んだと思います」

――『被害者がケガをしてるかもしれないとは思ったけど重くはないと判断した』って言ってますけど、そうなんですか?

「動転してしまってて、その場から逃げてしまいました」

――『届けなければ犯罪になるのは知らなかった』と供述してますけど、届けなきゃいけないのは常識としてわかりますよね?

「…はい」

――事件発覚後に被害者から何回も電話がかかってきてるのに出なかったそうですね?

「知らない番号は出ないことにしてるので…」

――事故後なんだから関係者だってわかるでしょ?

「被害者かもしれない、とは思ってました。でも警察が話してくれてると思ってて…」

――被害者の弟さんが家に来たことがありますよね?

「来てました。でも会ってません」

――事故から1ヶ月以上も保険会社に連絡しなかったのは何故ですか?

「そういうのは警察がやってくれてると思ってました」

――事故の時のことを聞きます。現場から逃げる時に道路を逆走してますよね?

「危ないな、とは思いました。でも気が動転してて、後ろを見たら車がいなかったのでつい…」

――気が動転してたのに安全確認はしたんだ?

「そうですね、バックミラー見て…」

――そこまでして逃げたのは『面倒くさかったから』だよね?

「…そうです」

また免許を取ろうとする被告人

この事故によって被害者は全治3週間の脛椎捻挫と診断されています。場合によっては後遺症が残る可能性もあるそうです。通常よりかなり遅い手続きにはなりましたが車の修理代と治療費は保険会社から全額支払われています。

被告人の運転免許は当然取り消しになりますが、今後また再取得をする意思があると話していました。

「これからは安全第一でやっていきたいと思います」

という彼の言葉をどう受け止めるべきなのでしょうか。

「電車だと母の見舞いが大変になります…」

などと愚痴めいたこともこぼしていましたが、自業自得という他はありません。

彼には今回の事故の7ヶ月前にも交通違反歴があります。この時の違反は赤信号を無視したというもので怪我人は誰もいませんが、検察官による論告ではこの前歴にも触れながら、

「交通法規を守ろうとする意識のカケラも感じられない」

と強い言葉での糾弾がありました。

最近は高齢者の運転による事故が大きくクローズアップされることが多いですが、年齢に関係なく自動車を運転してはいけない人は多く存在しているように思えます。自動車を運転する方には責任と自覚を持って安全運転を心がけてほしいものです。(取材・文◎鈴木孔明)

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