メルセデス、記録ずくめの2020年へ向け残る不安。気になる信頼性と一発のタイム/2020年F1合同テスト総括(2)

 スペイン・バルセロナで行われた2回のプレシーズンテストを終え、いよいよ開幕まで秒読み段階に入った2020年のF1。計6日間のプレシーズンテストでは各チームの勢力図もおぼろげながら見えてきた。今回はシリーズに参戦する10チームからテストで気になったチームを複数ピックアップし、テストの結果を踏まえながらシーズンの展望を予測する。連載第2回は前人未到のコンストラクターズチャンピオン7連覇に挑むメルセデスだ。

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 コンストラクターズチャンピオンシップ6連覇は、ミハエル・シューマッハーがいた時代のフェラーリ(1999~2004年)と並ぶ史上最長タイの記録だ。今年、記録更新に挑むメルセデスは、もし達成すれば、F1チームとして前人未到の領域に踏み込むことになる。

 ドライバーズタイトルも6年連続で、所属のドライバーたちが占めてきた(ルイス・ハミルトン5回、ニコ・ロズベルグ1回)。こちらはすでに歴代最長となっており、2020年に注目すべきはハミルトンが個人として7度目の戴冠を達成するか。

 そうなれば、シューマッハーの最多記録に並ぶ。ハミルトンはシューマッハーが持つ最多勝記録である通算91勝にもあと7勝に迫っていて、これも今年中に達成可能な数字だ。

 つまり、メルセデスが今年も他車に対する優位性を保てるようなら、記録ずくめのシーズンがそこには待つ。

 ただ、開幕前の新車テスト期間を通じてメルセデスのアドバンテージがどれほどなのか、本当にそれが存在しているのかは明確な状況ではない。

 今テスト期間中の全体最速ラップは、バルテリ・ボッタスが記録した。しかし、この1分15秒732という数字は、第1回テスト最終日となる3日目に刻まれたものだ。

6日間のテスト全体で最速につけたメルセデスW11だが2020年シーズンに向けて不安材料も多い

 ボッタスは第2回テストの最終日(通算6日目)にもトップタイムを記録するが、こちらは1分16秒196に留まっている。各車がクルマに開発を入れ、新車がより開幕仕様に近づいた状況でタイム更新どころか、コンマ5秒近くも落とす数字だ。

 確かに、コースコンディションが異なっていたという側面はある。ボッタスは両日でピレリのもっとも軟らかい“C5”タイヤを履いてトップタイムをマークしたのだが、テスト最終日にはひとつ硬い“C4”タイヤを履いたレッドブルのマックス・フェルスタッペンにわずか1000分の76秒差まで迫られている。

 ピレリは両コンパウンド間のラップタイム差を1周0.45秒としており、だとすれば、逆に一発の速さではレッドブルに利ありという見方もできる。

■ハミルトンのアタックはトラブルで不発。不安残る信頼性

 ハミルトンがテスト期間中、フルアタックらしいラップタイムを残せなかったのも、さらにことを不可解にする点だ。冬場のテストということもあり、暖かい午後のコンディションが一発のタイムを出せる好機とも言え、ハミルトンには第2回目テストの2日目(通算5日目)にアタックのタイミングが設定されていた。

 しかし、ここでメルセデス製パワーユニット(PU)のエンジン油圧系にトラブルが出てシャットダウン。わずか14周で走行を終えてしまい、予選シミュレーションを行なうことがかなわなかった。

ルイス・ハミルトンがドライブするW11

 F1歴代最多ポールポジション獲得ドライバーであるハミルトンであれば、メルセデスの新型マシンW11でさらにタイムを伸ばすことができたのか、それも不明のままだ。

 メルセデスは新車テストで一発のタイムではなくロングランをより重要視するスタンスだとはいえ、このトラブルは痛かった。

 なお、PU関連のトラブルはカスタマーチームであるウイリアムズにもテスト期間中に複数回出ており、しかも原因がそれぞれに異なるとされている。今年のメルセデスPUは最強パワー奪回にかなり広範囲な開発が行なわれており、それが信頼性低下につながっているのであれば不安材料でしかない。

 またメルセデスが投入するW11シャシーについても、前年型とほぼ変わり映えがしないというのが衆目の一致するところだろう。各所にファインチューニングは施されているが、チームが言うところの「正常進化型」だ。たとえば同じ正常進化型とするレッドブルは、それでも随所に新アプローチを入れてきている。

 1年前は初回と2回目テストで空力パッケージを一新させて大幅な競争力アップにつなげたメルセデスだが、今年はそれもなかった。だからこそ、補助的なシステムに過ぎない“DAS(デュアル・アクシス・ステアリング)”ばかりが騒がれるのだ。

 新車の開幕パッケージは、ここから大きく変わることはないのか?

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