国際女性デー:2分に1人……女性が命を落とすある理由 

 予防できるはずの病気で、年間30万人を超す女性の命が奪われている。その病気は子宮頸がんだ。2018年には年間約31万1000人、つまり2分に1人の女性がこの病気で命を落とした。これ以上、女性が子宮頸がんで苦しむことがないように——。3月8日の「国際女性デー」にあたり、女性たちを守るために闘う女性医師の声を伝える。

子宮頸がんについての説明を聞くジンバブエの女性たち © Nyasha Kadandara/MSF

子宮頸がんについての説明を聞くジンバブエの女性たち © Nyasha Kadandara/MSF

子宮頸がんとHIVが判明 患者にどう伝えるか

ベルギー出身の産婦人科医であるセブリン・カルワー医師は、国境なき医師団(MSF)の産科プロジェクトに参加し、シエラレオネやブルンジ、コンゴ民主共和国、アフガニスタンで活動してきた。

「2年前、私はモザンビークの首都マプトで、子宮頸がんのスクリーニング検査を支援していました。子宮頸がんになる可能性が高いとされる、HIVに感染した女性の検査に特に力を入れていました。

当時、看護師と一緒にリプロダクティブ・ヘルス(性と生殖に関する健康問題)の診療にもあたっていました。女性たちが診察を受けに来る理由はさまざまです。HIV検査、家族計画、産前ケア、子宮頸がん検査など多岐にわたっていました。 

産科病院で患者の家族と話すセブリン・カルワー医師(アフガニスタン)=2017年 © Najiba Noori

産科病院で患者の家族と話すセブリン・カルワー医師(アフガニスタン)=2017年 © Najiba Noori

ある日、40歳のモーラさん(仮名)という女性が診察に訪れました。一目見ただけで、モーラさんがやつれていて、リンパ節が腫れているのが分かりました。

「こんにちは、モーラさん。私はMSFの医師セブリンです」と話しかけたところ、優しい笑顔が返ってきました。看護師がモーラさんに来院の事情を尋ねたところ、「お腹が痛いのです。それから、なにか汚いものが膣(ちつ)から出てきていて……」と言うのです。

その瞬間、私は、これが単なる性感染症で、治療できるものであることを願いました。しかし、診察を行ったところ、大きな塊が子宮頚管から膣(ちつ)にかけて突き出ているのが、看護師にも私にも見えました。さらに診察を続けた結果、この大きな塊が骨盤壁にまで達していたのが分かったのです。

診察が終わり、モーラさんが服を着直したところで、私たちは彼女にHIV検査を受けるかどうか相談しました。本人の同意を得て検査を実施したところ、予想どおり検査結果は陽性でした。看護師は、モーラさんとテーブルに着いて、子宮頸がんとHIVという2つの重い病気にかかっていることを慎重に説明します。そして、できることはなんでもします、HIV科を紹介するので今日からでも治療を始められます、とモーラさんを励ましました」 

子宮頸がんのスクリーニングで女性の話を聞くMSFの看護師(モザンビーク)=2014年 © Sarah-Eve Hammond/MSF

子宮頸がんのスクリーニングで女性の話を聞くMSFの看護師(モザンビーク)=2014年 © Sarah-Eve Hammond/MSF

もっと早く検査を受けていたらーー

「しかし、子宮頸がんの治療は簡単なものではありません。手術と放射線療法を受けない限り、生存は困難です。モザンビークには放射線科がないので、患者さんを南アフリカ共和国の病院まで転院させる必要があります。しかし、移動負担や経済的費用などのハードルが高く、実際には難しいのが現状です。

私はモーラさんを抱きしめて、幸運を祈っていますと伝えました。重い足取りで家路についたのを思い出します。モーラさんの容態は深刻でしたが、ほとんど予防できたものなのです。もし、子宮頸がんの検査を受けていたら。もし、もっと早くHIV検査を受けていたら──。心残りな点はたくさんあります」 

今、世界全体で見ると、子宮頸がんで亡くなる女性の数は、妊娠中と分娩時の合併症で亡くなる女性の数を上回っています。2018年には、31万1000人の女性が子宮頸がんで亡くなりました。大多数は低所得国で暮らしていて、経済的、文化的、地理的な制約で満足な医療を受けられない女性たちです。

今後、子宮頸がんによる死亡者数は増える見込みです。しかし、世界はこの問題に無関心すぎます。ヒトパピローマウイルス(HPV)の予防接種をはじめとした予防法や、手頃な価格で受けられる凍結療法(子宮頸管にある異常組織を冷凍・破壊する)といった治療法が存在しているというのに……。

検診結果のデータを入力する看護師(ジンバブエ) © Nyasha Kadandara/MSF

検診結果のデータを入力する看護師(ジンバブエ) © Nyasha Kadandara/MSF

検診に来る女性が増えてきた

「2019年7月、私はジンバブエに移りました。MSFは、同国の保健省と連携して、子宮頸がんのスクリーニング検査と治療プログラムを援助しています。スクリーニングは6カ所の診療所で実施していて、来院した女性は、家族計画やHIVの検査と治療を受けられます。

2019年、ジンバブエ中部のグトゥで、MSFは5751人の女性に対してスクリーニングを実施しました。担当地域に住む女性の75%がスクリーニングを受けています。合わせて、診療所では健康教育も実施しています。さらに、資金を投じてループ式電気円錐切除法(LEEP)を導入したことで、病変をより適確に治療できるようになりました。

みな良い結果につながっています。年を追うごとに、検診に来る女性は増えていて、一方で、見つかる異常症例は少なくなっています。早期にスクリーニングを受ける女性が増えていることに関係しているかもしれません。アウトリーチ活動(医療援助を必要としている人びとを見つけ出し、診察や治療にあたる活動)も展開している上に、スタッフも異常を見分ける能力を上げています。長期にわたって有効なHIV治療を受ければ、前がん病変の解消に役立つことも分かっています。

2019年、MSFは、グトゥの学校で9歳~10歳の女児を対象にしてHPVの集団予防接種も実施しました。また、HIVに陽性反応が出た15歳~26歳の女性1000人にワクチンを提供しました。これを接種することで、健康上の危機にある彼らも、生涯にわたって病魔から身を守れるようになるのです。

こうした予防接種、スクリーニング、治療は、子宮頸がんの発現を予防し、若い女性に希望を与えるものです。もっと多くの女性が、モーラさんのように生きるチャンスを掴めるはずです」
 

子宮頸がんの検診を受けたジンバブエの女性 © Nyasha Kadandara/MSF

子宮頸がんの検診を受けたジンバブエの女性 © Nyasha Kadandara/MSF

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