不惑の燕左腕石川、若手に「まだ負けねえぞ」 通算200勝へあと29勝「あと2年で…」

ヤクルト・石川雅規【写真:荒川祐史】

1月22日に40歳に「まだ勝負できる、カズさんにも勇気もらっている」

 ヤクルトのエース石川雅規投手が19年目のシーズンを迎えた。身長167センチの小さな大投手は1月22日に40歳に。不惑を迎えても若々しく衰えを知らない左腕に沖縄・浦添キャンプ中に話を聞いた。通算171勝。節目の200勝に向けて「2年でやりたい。キャリアハイを目指す」と話すなど意気軒高。若手の“見本”ともいえる存在だが「まだ負けねえぞという気持ち。年齢で区切られたくないし、若手と勝負したい」と闘争心剥き出しに40歳シーズンに立ち向かう。一問一答は以下の通り。

――19度目のキャンプを終えて
「何度やっても難しいですね。毎回毎回違う課題が出てきますし、これでいいというものがない。日によっても体は違うし、年々僕らも歳を重ねていくので。今年の投げ方というのを早く見つけられるように、毎日試行錯誤しましたね」

――これだけキャリアがあっても
「試行錯誤しまくりですよ! マシンなら同じ投げ方ができますけど、そうではない。とにかく再現性を高めないといけない。そこが難しいです。再現性が高いピッチャーは大きな波がないと思うんですけど、どこかズレるから。何とかしたいと思うんですけど…」

――やはりズレが生じる
「年齢を重ねて、イメージとやっていることのギャップが生まれやすくなっているので、そこをどう埋めるかという作業がすごくあります。でも、もはや失うものがないというか、もう自分がこの年齢からどれくらい勝てるんだろうか、やれるんだろうか、というワクワク感の方が大きいですね。だから、自分に期待しないと誰が期待してくれるんだという思いで、自分自身に期待したいです」

――今年一番挑戦していることは
「結局、球が遅くても真っ直ぐなんですよ。しっかりとしたキレのいい、バッターが打ちにくい真っ直ぐというか、バッターのイメージと違う真っ直ぐを両サイドに投げられるかどうか。真っ直ぐがないと変化球も生きないので。そこですね」

――今季はどんなシーズンに
「毎年キャリアハイを目指していますけど、可能性はゼロではないと思います。やりようによってはまだまだ勝負できるんじゃないかと思っているので、そこをなんとか目指したい。年齢を重ねても結果を出し続けた先輩がたくさんいらっしゃいますし、野球界だけではなく、カズ(三浦知良)さんとかもいらっしゃって僕らもすごく勇気をもらえるので、そこになんとか近づけるように、近づいて終えられるようにしたいなと」

――200勝まであと29勝
「目標は2年でやりたいし、やらないと届かない数字だと思うんです。何勝で何年なんて計算し始めたら絶対ダメなので。やれるんだったら1年でもいいし、2年でもいいからやりたい。そうでないと若い子に勝てないです」

若手選手に「まだ負けねえぞ、年齢で区切られたくない」

――投手陣は若手の台頭が期待されている

「僕としてはポジションは奪い取るものだと思っています。与えてもらうものではないので。でも若い子に出てきてほしいという思いも正直あります。だけど、若い子にはまだ負けねえぞ、プレーヤーである以上は、いいプレーをした人がグランドに立つんだという思いがあるので。年齢で区切られたくないし、区切りたくないし。若い子と勝負したいですね」

――若手に求めるものは
「若い子と勝負してますけど、若い子だって出てきたくて頑張っている。決して練習していないわけではないし、考えていないわけでもないのも知っているので。あとは、小さな成功体験を積み重ねて、自信にしていく作業をするしかないんです。誰が教えるとかではなく、これは自分自身でしかできないので」

――石川投手自身も?
「若い頃の小さな成功体験が自信になって、でもその自信が崩れるのも簡単だから、そうならないように自分はこれだけ練習でやったんだぞという安心が欲しい。そのために、さらに練習をしてきました。だから毎年この時期も若い子と勝負している気持ちでやっているし、仲間だけどライバルでもあるので。だから楽しいですよ。若い子も頑張ってるな、俺も頑張んなきゃ!って思う。教えることは全部教えますよ」

――今の若手選手は?
「聞いてくるやつもいるけど、シャイボーイも結構いるんで(笑)。僕は若いころガンガン聞いたので、うっとうしいくらい聞いてほしいなと思いますけど、人それぞれタイプが違うから、聞いてこないからといってこいつ頑張ってないとかは一切思わないですけどね。自分でアンテナをいろいろ立てて、いろんなところに張り巡らせて頑張って欲しい」

――石川投手はどのように?
「投げ方、キャッチボールの仕方、トレーニングとか、調整とか全部です。当時は藤井(秀悟・現DeNA広報兼BP)さん、高津さん(監督)に聞いたりとか。もちろん石井(弘寿)コーチにも聞いていました。あとは、今も一緒にいる(五十嵐)亮太とか。一人一人やり方が違うので、その時聞いたことが引き出しとして僕の中にあって。どこにチャンスや上手くなる方法があるかはわからないので、今でもとにかくアンテナは立てているつもりでいます」

長持ちの秘訣は「敏感と鈍感をうまく使い分ける」

――今季は高津監督が就任
「僕は、監督がプレーヤーの時も一緒にやっていましたし、コーチの時は一緒に優勝させてもらった。僕自身、ピッチャーの監督が初めてですし、どういう野球をするのかというのは正直まだ分からないわからないですけど。勝負事には厳しい方だと思うので、そういう意味ではベテランとか関係なくいい選手を使うと思うんですよ」

――いい選手を使う
「僕らが結果を出すんですけど、僕自身、高津監督がどういう野球をするのかがすごく楽しみではありますね。風通しのいいチームにしようと言って下さっているので、すごくいい雰囲気です。結果を出すのは僕らなのでやるしかないですよね。(昨年は)一番下(最下位)だったので、もう上しかないですよね。下馬評が低い方が燃えるので、やりますよ」

――怪我をしない体づくりで気を付けていることは?
「時として敏感にならなきゃいけないし、時として鈍感にならなきゃいけなくて。怪我に関しては敏感にならなきゃいけないですけど、僕ら野球選手はどこかしら、何かありながらゲームに出ていて、万全なんてありえない。そういう意味では、時として怪我をしないように鈍感にならなきゃいけない。痛みには敏感だけど、その痛みによって行ける痛みだったら行かなきゃいけないし。そのバランスというのが難しい。その敏感と鈍感をうまいこと使い分けなきゃいけないと常々思っています」

――その考え方は以前から?
「僕はローテーションを空けると誰かにチャンスが行くと思ってるので。打たれて変わるなら仕方ないですけど、怪我して空けちゃダメなんですよ。僕は球が速くないですが、その中で一番大事にしているのは、投げてほしい時にいる存在であること。中4日でも中3日でも、『行けるか』と聞かれたら『行けます』といえる。先発ローテ投手がみんな怪我をしてしまっても、石川がいるからなんとか粘って、という存在でいたい。敏感と鈍感のいいバランスをと取ってやりたいなと思っています」

――バランスをとるのはすごく難しい
「僕だって痛くないわけはないし、でも投げたいし、投げなきゃだし。ギリギリのところでやっているかなと思います」

――鈍感をもう少し具体的に?
「鈍感にしているという感じですね。俺は痛くないんだぞ、大丈夫なんだぞとか。気にせずやるしかないので。それでたまたま怪我なくこられているから言えるだけで、これで怪我をしたらだめなので。あまりみんなに言えることではないけど。みんなどこかしら痛いので。チャンスというのは簡単に来ない。いい選手というのは、そこにポンと入って勢いよく行きますからね。怖いですよね。だから、常に危機感はあります。年齢と実績で飯を食える世界ではないので、そこはやるしかないかなと」

 ざっくばらんに本音を語ってくれた石川。若手投手の台頭を歓迎する一方で「まだ負けねえぞ、勝負したい」などと語り、自身への刺激にしているようだ。昨季までの18シーズンで2桁勝利11度、投球回数が2桁に終わったシーズンは1度だけ(2007年)。40歳代の開幕投手は1998年の広島・大野豊氏以来、プロ野球史上5人目の偉業だ。長きにわたってヤクルトの先発マウンドを守り続ける男の矜持を感じたインタビューだった。(新保友映 / Tomoe Shimbo)

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