『ひとくず』 誰かが救える小さな命を、もう一度考える

(C)上西雄大

 虐待を受けた疑いがあるとして、警察が児童相談所に通告した18歳未満の子供は、ここ5年で2.6倍に増え、昨年は9万7842人だったと先日発表がありました。メディアでは、千葉県野田市で小学4年生の女の子が亡くなった虐待事件の、耳を塞ぎたくなるような公判の様子が報じられ、心を痛めている方も多いのではないでしょうか?

 映画『ひとくず』は、ガスも電気も止められた家にたった1人で置き去りにされた少女・鞠の家に金田が空き巣に入るところから始まります。フラッシュバックのように思い出されるのは、タバコを押し付けられた金田の幼い頃の記憶でした。虐待する者、そして虐待される子供達の小ささ、弱さを真正面から描いた本作は虐待をリアルに描いているだけでなく、虐待する者の心も真正面から描いています。監督・脚本・プロデューサー・主演を兼任して、執念で映画を完成させたのは、3歳まで戸籍がなく、実の父親が日常的に母に暴力を振るっていた様子を目の当たりにさせられていたという上西雄大。かつての傷ついた少年だからこそ描けたのではないでしょうか。

 先日、私が手伝う別府ブルーバード劇場で映画『隣る人』の上映をした際、ゲストに来ていただいた児童養護施設「光の園」の園長先生が「虐待をしている人間の心も知らないと、虐待は無くならない」と言っていたことを思い出しました。虐待をする側もまた、何かしらの傷を抱えている。虐待をする親には被虐待児だったことが多いことも、私たちが考えなければいけないことの一つであることに気付かされます。親になれない親たちを、社会がどれだけサポートしてあげられるのか。今日もどこかで傷ついている小さな命の尊さを改めて考えるきっかけになった映画でした。★★★★☆(森田真帆)

監督:上西雄大

出演:上西雄大、小南希良梨、古川藍、徳竹未夏

3月14日(土)から全国順次公開

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