昨年9月の台風17号で見学施設が被害を受けた長崎県長崎市の端島(軍艦島)で2月21日、観光客の上陸が約5カ月ぶりに再開された。復旧工事の着手までに約4カ月もかかったことが、上陸禁止が長引いた要因になった。経営に深刻な打撃を受けた上陸クルーズ船業者からは、復旧工事の迅速化を求める切実な声が上がる。
▽相次ぐ被害
軍艦島は世界文化遺産「明治日本の産業革命遺産」の構成資産の一つ。長崎港の南西約17.5キロの沖合にあり、台風が通過するたびに猛烈な風と高波に襲われる。
2018年10月の台風25号では見学施設や桟橋に大きな被害が出て、翌年1月末まで約4カ月間上陸を禁止。昨秋の17号も同様に被害は大きく、25号を上回る長期間の上陸禁止をもたらした。
国と県、長崎市は軍艦島の護岸を保全するため、専門の検討部会を設置している。上陸禁止の長期化を防ごうと、部会では19年1月、復旧工事の手続きを簡略化し、工事業者を3週間で決めて着工する工期短縮の方針を提案。出席者によると、市の担当者からは異論が出ずに了承された。
▽入札は不調
だが昨秋の台風17号被害でも検討部会の方針は適用されずに終わり、長期の上陸禁止が繰り返された。
長崎市によると、昨年9月23日に上陸を禁止し、復旧工事の担当業者を決める入札を実施したのは12月5日。だが、予定価格を上回る応札で不調に終わった。同月24日の再入札で業者と随意契約を結び、工事を始めたのは今年1月21日だった。
市によると、大規模な修繕工事の場合、業者から参考見積もりを徴収して土木部局が設計を終えるまでに約1カ月半がかかり、さらに入札手続きの時間が必要になるという。
市世界遺産室は「手続き上、3週間で着工するのは困難だ。検討部会の方針はあくまでもイメージととらえていた。決定事項とは認識していない」と説明する。
市は今後、見学施設の柵を台風接近時に取り外せる方式に改良したり、島内に散乱するがれきに網をかぶせて通路への流入を防いだりして「復旧工事の時間をできるだけ短縮したい」との考えだ。ただ、今回も工事自体は約1カ月で終了しており、着工するまでの時間が長い現状を改善しないと大幅な迅速化は望めない。
▽悲痛な声も
長崎市は2009年に観光客の軍艦島上陸を解禁。現在、5社が上陸クルーズを運航している。2年連続で長期の上陸禁止が秋の観光シーズンを直撃しただけに、一部の業者からは「経営が成り立たない。このままでは事業撤退も考えねばならない」と悲痛な声も漏れる。
産業革命遺産の世界遺産登録に尽力し、検討部会の座長を務める加藤康子氏は「3週間着工の方針は国土交通省を中心に立案した。十分に実現可能であり、部会では合意したと認識している」と話す。「軍艦島には世界中から観光客が来ている。長崎市は『人類の宝』を持つ自治体として責任を自覚し、長期の上陸禁止を繰り返さないようにしてほしい」と求めている。