たった1日で25%下落、急転直下の「原油価格」はこの先どう動く?

WTI原油先物は3月9日、一時1バレル=30ドル割れへと急落。約4年ぶり安値をつけました。

3月6日に石油輸出国機構(OPEC)がロシアと追加減産協議で決裂し、サウジアラビアが増産姿勢に転じると報じられたことが主因です。新型コロナウイルスによる世界の原油需要の減少懸念もくすぶっています。

「経済の血液」ともいわれる原油の価格は、経済の動向も大きく左右します。この先、原油相場はどのように動くのでしょうか。


OPECプラスの減産協議が決裂

OPECとロシアなど非OPEC加盟国からなる「OPECプラス」は2017年1月以降、原油市場でのシェア争いをやめて、価格の下支えを目的とした協調減産を実施してきました。OPECプラスは2020年3月末まで、2018年10月を基準に日量170万バレル(B/D)の減産を実施。さらに、サウジアラビアは自主的に40万B/Dの減産も続けていました。

3月5日の臨時総会でOPECは150万バレルの追加減産案で合意。しかし、3月6日にロシアがこれを拒否したことで、2017年から続いた協調減産は3月末で終了する見通しとなっています。

サウジアラビアは、国営石油会社サウジアラムコが2019年12月に国内市場に上場。海外での新規株式公開(IPO)を成功させるためには、目先の価格維持が必要とされていました。

一方、ロシアでは、減産によるシェア低下に石油会社が不満を高めていました。予算の前提条件である原油価格が42ドル台であることなどから、減産拡大への切迫感がその時点で乏しかった点が、交渉決裂の背景にあったとみられています。

協調減産からシェア争いの戦略へ転換

原油市場では、OPECプラスによる協調減産が継続すると想定していたため、今回の決裂は想定外の出来事となりました。

今後、サウジアラビアは自主的な減産も取り止め、4月から1,000万B/D超へと増産する見通しが報じられています。2017年以降続いてきた「OPECプラスの協調減産による価格維持政策」から政策転換され、再び「原油安を放置し市場シェアを重視する戦略」がとられることになります。

世界生産の1~3位を占める米国、ロシア、サウジアラビアがシェア拡大を目的とした原油の増産体制に入るとともに、価格引き下げ競争が激化する可能性が高まっています。

今後、世界の原油市場で価格競争が激化した場合、圧倒的に生産コストが低いサウジアラビアが生き残る可能性は高いと思われます。一方、米国のシェール企業の損益分岐点となる原油価格は60ドル程度と見られていることから、高コスト生産企業は市場から撤退せざるを得ない状況に陥る可能性が高まってくるでしょう。

20ドル台の原油価格は長期化するか

米国は国内シェールオイルの生産増を背景に、世界一の原油生産国に躍り出て、中東などからの原油の輸入依存度を低下させてきました。しかし今後、原油価格が30ドル台で推移するようなことがあれば、操業を停止するシェール企業が増加することになるでしょう。

こうした米シェール企業の撤回により世界の原油供給量が減少することで、需給がタイト化してくれば、原油価格は上昇に向かう見通しです。目先は、世界の新型コロナウイルスの感染者数の増加を背景とした世界景気減速懸念の高まりも加わり、WTI原油はしばらく底ばいで推移すると予想されます。

下値の目安は、米シェールオイルなど産油国の増産競争が続く中で中国の景気減速が鮮明化した2016年2月の26ドルとなるでしょう。とはいえ、当時と同様、30ドル割れの期間は長期化しないと想定しています。

新型コロナウイルスの流行を背景に、2月には中国が金融・財政政策の両面から景気を下支えする政策を相次いで発表しています。3月に入ってからは、米国をはじめとする先進国が国際協調的な金融政策を実施し、景気対策も各国で立て続けに発表されました。

こうした政策が今後効果を発揮するとの期待から世界景気の大幅な下振れ懸念が後退してくれば、リスク回避的に下落した原油価格は回復に向かうと予想されます。今後、新型コロナウイルスの流行が収束に向かえば、原油需要の回復観測が高まり、WTI原油は50ドル程度へ持ち直すでしょう。

<文:シニアストラテジスト 山田雪乃>

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