須藤蓮(『ワンダーウォール 劇場版』主演俳優)- 希望は現実の壁を越えることができるか『ワンダーウォール 劇場版』公開記念インタビュー!

混沌と調和を完全再現

──『ワンダーウォール』の舞台である近衛寮は、京都の歴史ある学生寮がモデルとのことですが、セットや生活している寮生の描写がものすごくリアルで、その臨場感から一気に物語の中に引き込まれました。

須藤:僕も京都の学生寮には何度も行っているのですが、かなり忠実に再現されていると感じましたね。滋賀にある小学校を借りてセットをイチから作り込んだのですが、実際に学生寮にあった備品を使ったりもしているので、見た目だけでなくニオイまで瓜二つでした。

──庭でニワトリを飼っていたり、明らかに何か月も散髪していない年齢不詳の寮生がいたりするのもリアルですよね(笑)。

須藤:それも実際そんな感じですね。ニワトリもアヒルもいますし、四年では卒業しない学生の方が多かったりして。映画のように混沌としつつも、絶妙なバランスで協調性が保たれている場所でした。

──老朽化を理由として一方的に学生寮の取り壊しを決める大学側と寮生との戦いがメインのテーマですが、その寮生同士が温度差を感じるシーンがありますよね。その辺りも実際そうなのでしょうか。

須藤:そうですね。みんな寮の取り壊しには反対だと思うのですが、ラディカルな人もいればあまり表に出さないような人もいて。良くも悪くもまとまりがないという感じで、その辺りも多様性が認められているような印象です。

──須藤さんも大学生とのことですが、ご自身の周囲の環境と比べて何か思うことはありますか?

須藤:自分は今も慶応大学に通っているのですが、自分の周りの学生と寮生の皆さんとは根本的な考え方の太さが違うなと感じます。みんな「こうしなきゃいけない」という枠組みの中で生き過ぎているというか。

「なんとなく」な意見こそ実は重要?

──劇中で「経済至上主義は社会の幸福にとって本当に得策と言えるのだろうか」といった旨の台詞が出てきますが、これは『ワンダーウォール』の中だけの問題ではなく、最近の社会にも通じるテーマですよね。

須藤:映画の中に色々なテーマがあると思いますが、その台詞が映画の内容を一番物語っているのではないでしょうか。僕はもともと弁護士を目指していて、司法試験の予備まで通っていたのですが、この作品に出会ったことで自分の今後について疑問を覚えてしまいました。

──今回のイベント開催を決めたのも須藤さんということで、『ワンダーウォール』に対する思い入れを強く感じました。

須藤:本当にこの作品がなかったら本格的に役者を目指そうとは思わなかったかもです。それほど自分にとっては契機と言える作品だったと思います。もともとは単発のドラマだったのですが、色々な人に協力を頼んで、ようやく劇場公開までこぎつけられたので、ここをゴールにするのではなく、もっと多くの人に知ってもらいたいです。

──先ほど「映画の中に色々なテーマがある」と仰っていましたが、自分も映画を観てそう感じました。

須藤:物語の主軸は「大学VS寮生」ではあるのですが、それ以外にも「壁」や「対話」といったテーマは今の時代に生きる人にとって普遍的に通じるものがあるのではないかと思います。現実でも意見が対立した時、基本的には数字や利益が優先されて、「なんとなくこっちがいい気がする」という漠然とした意見は潰されがちですよね。そもそも数字のような客観的な情報と主観的な感覚は必ずしも一致するものではないのに、情報だけが勝ってしまうような社会で本当にいいのだろうかという疑問を感じます。

劇場版はエンディングが違う

──この映画で知り合った他のキャストの方々とはプライベートでも仲が良いそうですが、今伺ったようなテーマについて未だに話したりするのでしょうか。

須藤:いや、熱くなっちゃうのは自分だけですね(笑)。この前、開催したトークショーでも自分が熱く語りすぎて、舞台裏で「まあまあ」と窘められたり…。仲はいいのですが、思い入れという面では自分が一番強いかもしれません。今はとにかくこの作品を少しでも多くの人に観てもらいたいですね。僕の芝居はどうでもいいので(笑)。

──主要キャストのほとんどが1,500人のオーディションから選ばれたんですよね。

須藤:そうですね。オーディションの募集要項に「不条理だと思うこと、不自由だと思うことを書いてください」というものがあって、「これは普通の作品じゃないぞ」という気配はしました。

──ドラマ版と映画版との違いはどのようなところでしょうか。

須藤:大きな違いでいうと、ドラマのエンディングに追加のシーンが入りました。詳細はぜひ劇場版で確認していただきたいのですが、ドラマの放送から2年近くがたった今公開するにあたって、とても意味のあるシーンが追加できたのではないかと思います。他にも尺の都合でカットせざるを得なかった台詞がしっかり使われていたりするので、ドラマを観てくださった方でも違った印象で楽しめるのではないでしょうか。

──ドラマ『カーネーション』等でもお馴染みの渡辺あやさんによる脚本も魅力の一つですよね。

須藤:そうですね。お話の中に大きな仕掛けがあったりして、内容的にももちろん面白いのですが、個人的にはモノローグのひとつひとつがとても綺麗だと感じたので、その辺りもぜひ吟味していただきたいですね。

手を取り合える仲間を作りたい

──個人的な話で申し訳ないのですが、自分ももう三十代半ばなので、今の若い人と話すと「壁」を感じてしまうことが多々あり…。数年前なら「ちょっと飲もうか」で通じたところが、普通に断られたりすると、そこからどうコミュニケーションしていいのかわからなくなってしまうのがちょっとした悩みです(笑)。

須藤:本来、年齢の差は物事の本質とは関係ないとみんなわかっているはずなのに、偏見や無関心からすれ違ったり、険悪になったりしてしまうことはどうしてもありますよね。主義や立場が違うからといって、分断されたまま終わるのではなく、どうすればコミュニケーションが成立するのか、その先に進めるのかを、お互い一歩踏み込んで考えていかなければいけないと思いますね。

──もうちょっと頑張ってみようと思います(笑)。最後に4月3日のイベントについて伺えますでしょうか。

須藤:映画本編の上映と、僕と他のキャストやゲストを交えてのトーク、それと岩崎太整さんによる音楽ライブを予定しています。お客さんにも何かしらの形で参加していただけるようなものにしたいと思っています。固いイベントにするよりはお祭りのような雰囲気で楽しくやれるといいですね。あとはどうなるかわからないのですが、○○○○さん(大物俳優)にもシークレットゲストとして出てもらえるかもしれないです。

──ええええ!? すごい! 大きな壁を越えた感じがしますね(笑)。

須藤:あくまで「希望」の段階ですけどね(笑)。その日はお客さんとの壁も越えられるような、楽しい遊び場にしたいです。

──映画を観ればわかると思うのですが、今を生きる人が考えるべきテーマが本当に豊富で、どんな人が見ても何かしら感じることがあるのではないでしょうか。

須藤:本当にそう思います。「映画自体には興味ないけど、出演者が気になるから行ってみようかな」といったスタンスの方でも楽しめるようなイベントになるはずですので、ぜひ一緒に手を取り合える仲間になっていただけたら嬉しいです。

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