ラサール石井 - 「星屑の町」映画化! ドキュメンタリーのような作品

ずっとやってきたご褒美のような感じ

――この映画は舞台がベースにあるという事ですが、これを映画に持ってこようとした経緯を伺えますか。

石井:実現しなかったんですけど、今までも映画化の話があったんです。なので今回、水谷(龍二)さんが「映画になるぜ。のんちゃんがでるぜ」と言っても誰も信じていなかったんです。またつぶれるだろうとみんな思っていたんですけど、あれよと始まって完成も早くて。僕たちもビックリしていて、実現するときはこんな感じなんだと思ったくらいです。

――お話自体は杉山(泰一)監督からですか。

石井:多分そうです。監督が初演から舞台を見ていただいてる星屑の会ファンで、ありがたいことに全てオリジナルキャストでと言っていただけました。ずっとやってきたご褒美のような感じです。

――それだけ人の心に響く作品だという事だと思います。今回、映画化という事で見せ方も変わってくる点もあったと思いますが、新たに盛り込んだ点などはありましたか。

石井:元になったの初演の台本で僕が38歳のものなんです。舞台では菅原(大吉)君が演じた(山田)英二が、(久間部)愛ちゃんに惚れている話だったんですが、今やみんないい年なので英二の息子が惚れているという設定に代わりました。ほかはほぼ変わってないです。特に指定もなかったので演技プランも現場で組み立てていきました。何度も言ったセリフで、全員の息も出来上がっていて、みんながしたいこともわかっていたので、すんなり入っていけました。

――阿吽の呼吸もできていたという事ですね。

石井:そうですね。それにしても早かったですけど。

――撮り終えたときの感想を伺えますか

石井:僕らはいつも通りやっただけなので、あとは編集してもらって、どう音楽が入るのかなとお任せでした。演劇で成立する長さなのにほとんどカットされなかったので、演じていて長くなりすぎてないかなと思ったくらいです。

――スクリーンを通しての再演なんですね。

石井:そうですね。僕が38歳だったころに演じた女好きの役をこの年でのんちゃん相手にするのはリアリティがないので、何でもかんでも調子よく誘っちゃう演技にしたりと変化している点もあります。

――みなさんの掛け合いはほんとにおもしろくて、それは今まで培われてきたものだと感じました。

石井:舞台では1回本読みしたらスグに立ち稽古をやるんです。だいたいが楽屋のシーンなんですけど、どこに立って、どう演じるかは指示がないんです。だから場所の取り合いなんで、各々で計算して舞台はやるんですけど、映画もそれに近い形でした。一応監督から簡単な指示はあるんですけど、そのあとはそれぞれ勝手にリハでやって、それを見た監督から「ここは1カットで抜こうか」などすり合わせをして、現場で作った形でした。

――だからみなさん自然に演じられているんですね。

石井:演じた役の出身地はみんな自分の出身地なんです。いろんなエピソードもだいたい本人をモデルにしていて、なのでドキュメンタリーのような作品になっています。

目がキラキラしていてスターだなと感じました

――25年続いた作品に杉山監督とのんさんが入られた形ですが、お二人はどのようにそのチームに入られたのですか。

石井:監督は舞台も見ていて、菅原君とも仲が良かったのですんなり入ってきてましたね。のんちゃんは緊張していたみたいですけど、堂々としたもので現場では一番しっかりしていたと思います。僕らの方がフワフワしていたくらいです。

――ハローナイツのメンバーに入ったのんさんを見て如何でしたか。

石井:上手くはまっていたと思います。ハローナイツを好きという設定はどうかな。今どきの若い子がこんなおじさんコーラスグループ好きなのは無理があるかな(笑)。芸能界に入りたいという夢を持っている女の子は今の時代もいると思うので、それがコーラスグループかというのは昭和歌謡っぽくていいかもしれないですね。

――今はアイドルが多様化しているのでこういう形も受け入れ易いんだと思います。

石井:そうかもしれないですね。コーラスグループはボーカルが立ちますからね。本当にのんちゃんがきれいで可愛くて素晴らしかったです。

――ハローナイツの魅力があふれていて素晴らしかったです。

石井:僕らもどう撮られているか意識せず演じていて場面によっては切れている部分もあるんですけど、切れていてもそこにいるという空気を作っているのでどこを切っても大丈夫なようになっているんじゃないかな。監督も必ず全員入れなくちゃいけないという撮り方もしていないので。

――まさにライブ・ドキュメンタリーのような形なんですね。

石井:待っている間と同じ感覚で本番なので、どこからどこまでが芝居かがわからないくらいでした。

――のんさんとハローナイツ、どちらも引き立つような形で凄く良かったです。女優のんはどんなかたですか。

石井:凄いですよ。憑依型な女優で、最初の田舎娘のシーンは猫背なんですけど、売れてくると背筋がピーンと伸びてくるんですよ。「シャボン玉」の時なんかはオードリー・ヘップバーンみたいで、目がキラキラしていてスターだなと感じました。だからそれにまとわりついている金魚のフンみたいなおじいさんたちが逆に愛らしく見えるのかな(笑)。

――ほんとに皆さん役者巧者で巧みに芝居を回されている中にポンとのんさんが入ってくるのはたまらなく絶妙でした。

石井:本当にうらぶれて売れてもいなくてそれでも歌にしがみついている人のところに「あんたらの人生つまらない」と一喝する少女が出てくるというとこに面白みがあるので。本当によく書けた本だと思います。

――映画化に際して気を付けられたことはありますか。

石井:芝居で映像を意識するかどうかというところですね。今までも映像作品を意識して押さえてやったらもっとやってよかったなと思うことが多かったので、今回は舞台のままでいきました。そしたら水谷さんに「くさい」と言われました(笑)。さじ加減は難しいですね。

――現場の雰囲気はどうでしたか。

石井:そこは舞台とも変わらずワイワイやってました。舞台の時も本番直前まで馬鹿話をしてゲラゲラ笑っていたりして、客席に聞こえますと怒られたりしていたんですけど、今回も直前まで同じように馬鹿話をしていました。

――楽屋をそのままステージにあげた形なんですね。そう聞くと台本もいらないくらいですね。

石井:台本は頭に全部入っているので誰も見ていなかったです。NGを上手く使っているシーンもありますし、リハだと思ったら本番だったシーンもあるので、本当に本番との境がなかったです。

見終わって気持ちが温かくなる映画

――今も時代を超えて愛される理由は何だと思いますか。

石井:日本人の情感だと思います。みんながどこにでもいるような人で、でも少しずつ変なところがあって。なんか愛おしい。水谷さんのホンの魅力だと思います。水谷さんのホンは行間を想像できるところがいいんです。ひょっとしたらこう思っていたのかなというところが伝わっていくるところが。そういう意味では大人な脚本だと思うんです。それぞれがみんな自分のことを考えているんだけど相手のことを思いやっていて、そこは言葉にしなくてもわかるよというのがみんなの中にあってそれが伝わるんだと思います。あと、僕たちが長く続けようと考えなかったのも良かったんだと思います。

――だから常に自然体でいられるという事なんですね。

石井:そうですね。「そろそろやりますか」と話が出て水谷さんの構想が出来上がってから始まるという形で続いてきました。星屑は別のシリーズもあって、完結とは謳いましたが「星屑の町 忘却編」もやる予定です。

――この映画はそことも繋いでいる作品になっているんですね。

石井:そうですね。そこに映画が繋がっていくといいなと思っています。

――映画から新たなファンが入ってくる形ですが、そういった方に対して星屑の会の魅力を改めて伺えますか。

石井:特に凝った筋立てもなく、CGもなく、普通の人たちが色々な思いを抱えていますが、歌で結ばれている。少し前のことのような、昭和の頃にこんなことあったよなという懐かしさがあって見終わって気持ちが温かくなる映画になっています。この作品は何度でも見れる作品になっていると思うので、何度も足を運んでいただいて、星屑ファンになって応援していただければなと思います。僕たちにとっても映画になることが夢のようなことなのでこの夢を一緒に楽しんでください。

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