心に刻む日

 「山笑う」は春の山の明るい感じ、「山滴る」は夏の山の青々としたさまをいう季語で、山粧(よそお)う秋、山眠る冬と、山はいろいろな表情を持つ。泣き顔はあるか。長谷川櫂さんは詠んでいる。〈山哭(な)くといふ季語よあれ原発忌〉▲俳人の造語らしい「原発忌」とは、きょう3月11日を指すのだろう。東日本大震災、東京電力福島第1原発の事故が起きて9年たつ▲広島、長崎の原爆の日、終戦の日と、私たちがずっと心に刻み、忘れてはならない日がいくつかある。きょうもその一つだが、日頃よく知らずにいる「被災地の今」があり、知って「ああ、そうなのか」と息をのむことも多い▲例えば、JR常磐線がもうじき9年ぶりに全線運行を再開し、福島県内の不通が解消されると知ったとき、復興が進んでいることに安堵(あんど)感を覚えた。では地元が大喜びかといえば、そうではないらしい▲常磐線の三つの駅が再び開業するが、避難指示が解かれるのは駅舎や周辺道路に限られる。あとの広い範囲は放射線量の高い「帰還困難区域」のままだという。人が住むには年月を要し、運行再開に「意味はない」という声もある▲「帰還困難」の4文字に目を凝らし、震災、原発事故は現在進行形なのだと、改めて胸に刻む。被災地の4万8千人が今も避難を続け、山は今も哭いている。(徹)

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