相場急落時こそ考えたい、「積立投資」に潜む大きな落とし穴

新型コロナウィルスの感染拡大により、世界同時株安が進行しています。今年の2月には2万3,995円の高値をつけた日経平均株価。達成すれば3度目となる2万4,000円の大台突破が期待されていましたが、それは今や遠い目標となってしまいました。

感染拡大に伴うサプライチェーンの停滞懸念などを背景に、日経平均は3月10日に一時1万9,000円割れとなるなど、パニックとなる場面もありました。11日には反発しましたが、それでもまだ2万円には届かない水準です。日銀が2日に買い入れたとされる1,000億円以上のETF(上場投資信託)は、すでに含み損という厳しい段階に入っています。

そんな状況で考えたいのが、積立投資とのうまい付き合い方です。金融機関は「暴落した時こそチャンス!」というセールストークをよく使いますが、はたして本当にそうでしょうか。


積立投資は「やめ時」が肝心

積立投資でとても重要な要素が「やめ時」です。なぜなら、積立投資は積み立てる期間とともに運用資産が膨らんでいき、やめるタイミング次第で損益が大きくぶれてしまう性質があるから。つまり、積立投資で最も大事なことは、「いつやめるか」の目標設定を行うことなのです。

積立投資のやめ時が大事な例を、20年間非課税枠を用いて積み立てられる「つみたてNISA」から確認してみましょう。この制度を活用すれば、年間40万円を20年間積み立てることで最大800万円の非課税枠の恩恵を受けることができます。

つみたてNISAを用いると、19年目には760万円の元本が積み立てられていることになります。日本株の期待収益率である4.5%から考えると、期待値としては、19年目の運用資産は約1,174万円程度となり、414万円程度の利益が出ている計算になります。

ここで景気後退懸念が発生したとすると、積み立てを継続した場合と、やめた場合では、どれほどの差が生まれるのでしょうか。

時間の経過とともに変動幅が増大

20年目に積み立てを継続した場合、期待値から考えた運用資産は約1,268万円で、およそ93万円程度増加します。約40万円がその年の元本になるため、20年目の積み立てで期待できる利益の増加は53万円程度となります。

では、20年目に今回のような20%程度の株価下落が発生した場合はどうなるでしょうか。

19年目までに形成した1,174万円と20年目の元本40万円を合わせた1,214万円の評価額は971万円まで下落します。その差はなんと243万円。これは、積み立て開始から5年半までに積み立てた資産をすべて失うことと同じです。

これが「時間の経過に伴って資産の変動幅が増大していく」という積立投資の特徴です。なお、つみたてNISAにおける非課税期間の20年間が終了しても、一般口座で投資を継続することは可能です。

老後の資金や子どもの教育資金のために積立投資を検討されている場合、「つみたてNISAにおける20年の非課税期間」を、「老後の資金が必要になるまでの年数」や、「子どもが大学に進学するまでの年数」と読みかえれば同様です。予定した投資期間を丸々使い切らないほうが資産を最大化できる場合があります。

積立投資は徐々に“短期投資的”になる

株式の平均期待収益率から考えれば、単年ではマイナスとなっても、数十年間で得られるリターンを平均化すれば、1年当たり4.5%程度は儲かっていることになります。そうすると、期待値としては株価が下落する局面でも投資するメリットがあるのではないか、と考えられるかもしれません。

しかし、この考え方は将来も積み立てを継続するという前提でのみ有効な試算です。景気には数年単位の波があります。株価下落局面でも積み立てを継続すると、そこで発生した損失や評価益の縮小を取り返すまでに想定以上の時間がかかり、残存期間を大きく超過する可能性があります。

積立投資を行う期間が有限であれば、この「残存期間」という概念を頭に入れておかなければなりません。たとえば、つみたてNISAにおける19年・12月目の投資分は1ヵ月にも満たない投資期間となります。終盤における積立投資分は、ノイズレベルの動きでも簡単にマイナスになり、積み立てのメリットが十分に発揮されないまま終了する可能性が高くなるのです。

このように、積立投資は残存期間が短くなれば短くなるほど、短期投資的になることに注意しなければなりません。

下がった時に売らざるを得ないことも

また、景気後退期に積立投資を継続するデメリットも見逃せません。それは、「将来のキャッシュフローを予見することが難しくなり、積み立てが難しくなる可能性がある」という点です。

具体的には、「下がった時がチャンスだと思っても、不景気による収入減が家計に響き、貯金や資産を切り崩さざるを得なくなる」といった状況があります。よく「株価が下がった時に投資をやめるのは愚かだ」という論調が目立ちますが、現実問題として切り崩せる資産がなければ、それをわかっていても投資をやめざるを得ないのです。

積立投資は、すでに積み立て終わったポジションに関してはリスクをコントロールすることはできません。そこで、「いくら知識がなくても大丈夫」という売り文句がはびこっているとしても、いつやめるかという点と、残存期間の終盤に景気動向が悪くならないかという点については、最低限アンテナを張っておいたほうがよいでしょう。

今回のように景気後退局面入りの兆候が現れた段階で、すでに相当の資産を積み立てている方は、少なくとも積み立てる金額を抑えたり、一部を現金に退避させたりするなどして、様子見にシフトするほうが安全かもしれません。

また、これから積み立てを始めようとしている方や、始めて間もない方も、いったん底打ちを確認してから積み立てを行うほうが堅実といえるでしょう。

<文:Finatextグループ 1級ファイナンシャル・プランニング技能士 古田拓也>

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