台風で20万匹全滅 壊滅被害の養魚場、再起へ奮闘

養殖中のヤマメをチェックする髙原社長。まだ水が入っていないいけすもある=足柄養魚場

 神奈川県内に大きな爪痕を残した台風19号の襲来から、12日で5カ月が過ぎた。豪雨による狩川の氾濫で壊滅的な打撃を受けた南足柄市矢倉沢の足柄養魚場は、周囲の支援を受けながら一部の養殖を再開した。一度は廃業も覚悟した髙原良社長(45)は「まだ道半ばだが、何とか元の姿に戻したい」と再起に向けて奮闘している。

 昨年10月12日、狩川沿いにある同養魚場は狩川の水位上昇で水門と直径30センチの導水管2本が流された上、最も大きい直径60センチの導水管も土砂が詰まり断水する被害に見舞われた。養殖のニジマスやヤマメは常に水を流さないと酸欠状態に陥って死んでしまうため、19区画、計約700平方メートルのいけすで育てていた成魚や稚魚20万匹は全滅した。

 髙原社長は山梨県道志村にある別の養殖場で5年ほど勤めた後、地元の人から施設を引き継ぐ形で2005年に養殖場の経営を始めた。いけすなどの整備や修繕を重ね、18年はニジマスを中心にヤマメ、イワナ計約30トンをホテルや釣り場、河川放流用に出荷した。

 経営も落ち着いてきた矢先の惨事だった。あまりのショックに、一度は養魚場をやめようと思った。失意の中、同業者や取引先から「ここまで頑張ってきたのにもったいない」「ぜひ続けて」と励まされ、「自分はこれしかできない」と3千万円を借金してやり直すことを決断した。

 直径60センチの導水管を修理した後、同業者から養殖魚の卵を分けてもらい2月27日から事業を再開した。しかし、残りの導水管2本と水門は復旧しておらず、空のいけすもある。

 全面復旧とはいえず、今まで育てていた系統の種類を出荷するまでには2年ほどかかる見込み。髙原社長は「上流に民家がないこの場所は水質が良く、魚も元気に育つ。大変だが、応援してくれる人たちのためにも頑張りたい」と復旧作業に精を出している。

 一方、髙原社長が運営している300メートルほど下流の「狩川渓谷ます釣り場」などはかなが、5月の再開を目指している。

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