【高校野球】選抜が消えた日… 長崎・創成館が大型看板とブログに記した次へ向かう気持ち

今春の選抜出場予定だった長崎・創成館高校【写真:学校提供】

長崎・創成館の奥田修史校長が地域に向けて発信した言葉が話題に

 国道34号線に面したある場所を通ると、目に飛び込んで来る看板がある。「春の忘れ物は夏、取りに行きます。暖かいご声援ありがとうございます」――。短く、強いメッセージは、中止となった選抜に出場予定だった長崎・創成館高校のものだった。

 史上初の中止の連絡を受けた同校の奥田修史校長が迅速に動いた。「とにかくなるべく早く(看板を)出したかった。私たちはたくさんの地域の応援を受け、『創成館、どうするんだろう』と中止を受け心配する声をたくさんいただいたので、その答えを出したかった」。学校内のデザイン科にある大型プリンターで4枚の用紙に思いを込めた言葉を印刷し、繋ぎ合わせた。掲示したこの場所は長崎県内でも多くの交通量のある道だった。

 悔しく、残念がったのは球児だけではない。学校関係者、保護者、地域の人々……。この事態にどこに感情をぶつけていいか、わからない。しかし、この看板と奥田校長が記したブログのメッセージがその気持ちを少しだけ和らげた。

 ブログにはこのようにある。

―――

 野球部の部員の皆さん、支えてくださる保護者の皆さん。辛いですよね。
たまんないですよね。

 この気持ち、どこにぶつけていいか分かんないですよね。私も一緒です。大きな大きな忘れものをした感じがします。

 みんなで、耐えましょう。

 耐えて、耐えて、耐え抜いて、強く優しい人間になりましょう。

 成長できる機会と信じて、この時を活かしましょう。

 そして、夏。

 みんなで、この忘れものを取りにいきましょう。

 みんなで、ね。

―――

 学校、チーム、地域がまたひとつになって甲子園を目指していきましょう、という新たな目標に向かって、創成館は動き出している。

中止決定に奥田校長は主催側に「感謝」、電話の向こうで感じた誠意

 様々な議論がされる中で下された決断。涙を流す出場校の指導者、選手もいたが、創成館の奥田校長は「感謝しています」と日本高野連ら主催側へ敬意を表する。

「この決定がされるまで、日本高野連本部の方々と多くの情報をやりとりさせていただきました。日に日に声がかすれていて、寝ていないんだろうな、疲れているだろうな……ということが電話の向こうから感じられました。開催に向けて動いていただき、最後は『申し訳ない』と言われましたが、私はありがとうございました、少しお休みになられてください、と伝えました」

 辛く、たまらない気持ちだったのは学校側だけはない。みんなが苦しい現実と向き合っていた。記したブログのメッセージが、多くの人が背負っていた重い荷物を少しだけ軽くしたのではないか。

「耐えて、耐えて、耐え抜いて、強く優しい人間になりましょう」
「成長できる機会と信じて、この時を活かしましょう」

 10年後、20年後、創成館の選手だけでなく、聖地に立つはずだった球児たちにもこの言葉を贈りたい。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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