コロナウイルスはいまだその拡大を緩めることなく、世界中に広がっています。医療や科学の力で各国がその抑制に尽力していますが、なかなか終息の見通しはたちません。何もすることのできない市民らはもはや「祈る」ことしかできないのです。その祈りの対象は、国や宗教によって異なります。
対象は違えど、その祈りが一点に集まったらどんなに素晴らしいでしょう。実は、そんなスポットが横浜にあるのです。
横浜市の三渓園や本牧市民公園といった、市民の憩いの場から急坂を登った丘の上に独特なフォルムの建物があります。
「横浜市八聖殿郷土資料館」という施設で、法隆寺夢殿を模した建物は昭和八年に完成。
最寄りの元町中華街駅からも、バスで数十分かけないとたどり着けないばかりか、そこからもさらに坂か階段を登らないとならないという辺鄙な立地です。
その訳はこの施設が元々、熊本県出身の政治家で逓信・内務大臣をつとめた安達謙蔵(1864~1948)の別宅としてつくられたためなのです。
一階には、当地周辺の幕末から明治にかけての様子が描かれた資料や、農具・漁具の類が展示されており、各地によくある郷土資料館となんら変わりはありません。
しかし、白眉は二階。
階段をあがったその奥には、八体の像がズラリと並んでいます。
左から、キリスト・ソクラテス・孔子・釈迦・聖徳太子・弘法大師・親鸞・日蓮という八人。洋の東西も時代も飛び越えた思想の偉人たちで、この像があることからこの施設が「八聖殿」と名付けられました。
安達謙蔵が、世界の偉大な思想家を厳選して作らせました。三十人ほどから八人に絞っていくのにかなり頭を悩ませたといいます。
スポーツのオールスターゲームは、同じベンチに並ぶはずのない選手が並ぶ姿に興奮しますが、ここはまさに思想界のオールスター状態。
実は、オールスターなのはモチーフとなった人物ばかりではありません。
こちらは向かって左側の四体ですが、サイズ感は合わせてあるものの、それぞれ彫りのタッチが若干異なるのにお気づきでしょうか?
キリスト像を彫ったのはイサム・ノグチらとも交流のあった武蔵野美術学園の初代学園長である清水多嘉示。ソクラテス像は、あのロダンの助手をつとめた藤川勇造が手がけています。さらに、孔子像を作ったのは長崎の平和祈念像を手がけた北村西望といった、とてつもない面々。
右側の四体です。聖徳太子像は早稲田大学の大隈重信像を作った朝倉文雄が手がけ、日蓮像を彫った日名子実三は、サッカー日本代表のシンボルマークである八咫烏をデザインした人物。
モチーフだけでなく、製作者までもが当時の日本芸術界のオールスターを並べたものなのです。
アクセスがかなり悪いために、あまり知られていませんが、このオールスターを無料で見られるすごい空間です。(Mr.tsubaking連載 『どうした!?ウォーカー』 第53回)