相模原殺傷16日地裁判決 責任能力争点、大麻の影響どこまで

横浜地裁

 神奈川県立知的障害者施設「津久井やまゆり園」(相模原市緑区)で2016年7月、入所者ら45人が殺傷された事件の裁判員裁判は16日、横浜地裁(青沼潔裁判長)で判決が言い渡される。殺人などの罪に問われた元職員植松聖被告(30)に検察側は死刑を求刑し、弁護側は心神喪失による無罪を求めている。障害者を蔑視する発言を法廷でも重ねた被告にどのような刑を科し、社会に潜む優生思想を浮き彫りにした事件をどう総括するのか。裁判員らは難しい判断を迫られそうだ。

 公判は事実関係に争いがなく、争点は被告の刑事責任能力の有無と程度に絞られている。事件前から常用していたとされる大麻が、事件当時の被告の行動にどのような影響を与えたのかを巡り、検察側と弁護側の意見が対立した。

 検察側は、妄想などに支配された形跡が被告になく「大麻の影響は限定的だった」と主張する。犯行前日に後輩女性と食事するなど日常生活に支障が見られない点や、事前に拘束具などを準備した犯行の計画性、襲撃時の被告の理性的な行動などを根拠に挙げた。

 「意思疎通の取れない障害者を殺す」との動機についても、元来のゆがんだ人格に、園での勤務経験から生じた差別的な思考と見聞した世界情勢が影響して形成されたと指摘。「病的な妄想ではなく、単なる特異な考え方に過ぎない」と述べ、完全責任能力を有しているとした。

 弁護側は「大麻の乱用で被告は、妄想や幻覚が発症することもある『大麻精神病』を患っていた」と反論した。本来とは別の人格になった結果、差別的思想が先鋭化して行動が粗暴になり、異常な言動を周囲に示すようになったとした。

 襲撃についても、そうした異常な思考に支配されて実行したものだと強調。「善悪を判断し、行動をコントロールする能力が失われていたか、著しく減退していた」として、無罪か減軽が相当だと訴えた。

 公判で被告は障害者への差別的な発言を連ね、「金と時間を奪っている障害者を殺すことは社会の役に立つ」と殺傷行為を正当化した。「自分には責任能力がある」と弁護側の姿勢を批判する場面もあった。最終意見陳述では、社会へ問い掛けるかのように「裁判の本当の争点は、(全ての人が)自らが意思疎通できなくなるときを考えること」と持論を語った。

 一方で、被告の生い立ちや成育環境については、検察側、弁護側とも法廷での言及は少なかった。事件の背景を解明する上で欠かせない要素とする見方は多く、判決がどこまで踏み込めるのかも注目される。

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