アルファロメオ4C、絶滅危惧種の武骨なスポーツカーで味わった「手強さ」と「楽しさ」

走りに必要な最低限の機能と、アルファロメオらしい切れ味鋭い走り。本当のスポーツカーの楽しさを4Cスパイダーのステアリングを握りながら、たっぷりと満喫。

あぁ~、やっぱりいいなぁ!


絶滅危惧種?

ちょうど7年前の春、スイスのジュネーブショー2013で1台のイタリアン・スーパースポーツが発表されました。アルファ・ロメオ4Cというミッドシップカーです。イタリア車、ミッドシップなどと聞くとどうしてもフェラーリやランボルギーニといったスーパーカーを思い浮かべますが、こちらは超弩級スペックの、超高価なスポーツカーではありません。

2015年に日本に上陸したときは標準モデルで783万円、内外装にカーボンパーツを多用したり、レザー&アルカンターラシートなどをお装備した限定モデルでも891万円でした。現行のクーペモデルにはオープンになるスパイダーモデルがありますが、どちらの価格も865万円です。スーパーカーと比べればずいぶんとリーズナブルですね。

ピンとお尻がはめ上がり、さらに張り出したグラマラスなリアスタイル

クルマに詳しい人の中には「あれ、まだ売っていたの?」といった疑問を抱く人もいるかと思います。確かに昨年の秋に欧州やアメリカでは排ガス規制などの問題もあり“販売を終了した”という報道がありました。

一方で日本も含めたその他の国では「まだ販売します。少なくとも日本ではまだ出来る限り継続します」と広報部の回答がありました。魅力的なクルマがまだまだニューモデルで手に入ることは嬉しいと思いますし、インポーターの努力に感謝するだけです。

ではこの4C、販売継続を喜べるだけの魅力があるのでしょうか? はっきり言いますが、確実にあります。先日、短時間とはいえスパイダーに乗る機会を得て、つくづくそう感じました。この数ヶ月間、ランボルギーニ・ウラカンEVO、ポルシェ911カレラ4S、日産GT-Rニスモ、マクラーレン570Sなどなど、魅力的なスーパースポーツに乗る機会を得ましたし、少し遡ればレクサスLCといったスポーツカーとも走りました。

この4Cは、それらのスポーツカーと比べて、もっともコンフォート(快適)という基準から遠いところにあるスポーツカーです。その上、1745ccのターボエンジンの最高出力は240馬力エンジンで、特別強力というものでもありません。装備だってマニュアルエアコンだし、インパネにはモニターの類いが入り込む余地がありませんからナビは後付け。本当に走ることに必要な装備だけという感じです。それでも4Cの存続を嬉しく思う理由を探してみましょう。

軽いということも優れた性能

ボディサイズに車両重量、最高出力に最大トルク、そして最高速度に0~100km/hの加速時間など、車のスポーツ性能を表す数字は色々とあります。4Cのスペックで特に注目すべきは車両重量の軽さです。1060kgというのは最近話題のトヨタのコンパクトカー、ヤリスのハイブリッドとほぼ同じ車重です。そこに240psのエンジンを載せているのですから十分すぎるほどの余裕です。

必要な情報をデジタルで表示するシンプルなメーターパネル

そしてもう一点、ボディサイズは全長3990mm×全幅1870mm×全高1190mmというコンパクトさ。特に高さはホンダの軽自動車スポーツS660より1センチ高いだけ。全長が短くこれだけ幅があり、おまけにぺったんこという、これまであまり見たことがないほどのショート&ワイド&ローというスタイルなのです。これで重心もさがり、さらに幅広のために踏ん張りがききます。すでにこの数字を見ただけでも、スポーツカーとしての楽しさが伝わってきます。

ボディがカーボンファイバー製のモノコック、アルミ製のサブフレーム、そしてガラス繊維強化樹脂製のボディーパネルといった素材で構成されていますから、スポーツカーにとって重要なガッチリとした骨格と“軽さ”という武器は備わっていることになります。

さらにそれらの素材がけっこう剥き出し状態ですから、見た目にもかなりハードな印象です。ゴージャスに隅々まで作り込まれたインテリアに慣れた目には、相当にワイルド。言ってみれば室内がコンクリート剥き出しのおうちみたいな雰囲気なんです。多分、この辺を理解して受け入れないとなかなかこの4Cというクルマとは仲良くなれないかもしれません。

決して豪華とは言えないがシンプルでスポーティなインテリア

そんなチェックをしたところでエンジンをスタートさせます。ちなみに車名の4Cは4気筒エンジンという意味です。そのエンジンはミッドシップですから背中後方に積まれています。ブォ~ンとけっこう迫力あるエンジン音が飛び込んできます。早速、ブレーキを踏み、シフトボタンを押します。いよいよスタートです。

操作感、レスポンスよし

走り出すとすぐに走りの素性の良さが伝わってきます。スペック面で500馬力を超えるようなスーパーカーよりも気楽に考えていましたが、なんのなんの、これが相当に手強いフィーリングなのです。アクセルを踏み込めば、強烈ではないのですが、パワーと盛り上がってくるトルクを全身で感じます。

体をガッチリとホールドしてくれるシートだが座り心地もいい

軽量であり、それに見合うだけのパワーがあるということはこれほど楽しいものなのか、そんなことを十分に感じさせてくれるほどレスポンスがよく、速度も上がっていきます。ここで本当にドライバーは調子に乗ってしまいます。

コーナリングに突入すればその走りはさらに楽しいので、こちらももっと調子に乗ることになります。ステアリング切ると瞬時にノーズが行きたい方向に向いてくれます。右にスッと切り込むとスッとほとんど遅れを感じることなくググッとノーズが右に向きます。そこからさらに切り込めば、本当に自分の考えている方向が分かっているかのように、思ったまま向きが変わっていくレスポンスのよさ、さらにその操作感の良さに思わずニンマリです。

これが切れのいいフィーリングということなのでしょう。おまけにコーナリングは路面に貼り付いたように安定しています。これも重心が低く、軽量であることのお陰です。そのコーナリングのレベルは相当に高いので、少しぐらいのことでは姿勢を乱すこともない気がします。多分、公道で法規を守って走る限りは破綻を迎えることなどないかもしれません。

おまけにもうひとつ、ブレーキのフィーリングのいいこと。ペダルを踏んだときのタッチの良さだけでなく、踏力に合わせてジンワリと制動力を増していくブレーキの感触は「こりゃ気持ちいい」というものです。走りにおいて軽量であることの利点が随所で感じることができるのです。こうなると本当にペースが上がります。

だからこそ抑制する気持ちをしっかり持っていないと260馬力であろうとスーパースポーツ以上に気を付けなければいけないのです。でも、そんなことを言ってもこんなに楽しいクルマは久しぶりですから、気が付くとずっと笑顔なんです。試乗車を返すとき、もっと乗っていたいなぁ、と感じた1台でした。

そしてこのクルマをわが国では新車でまだ買えることに感謝しつつ、このクルマを買える人をとても羨ましく感じたテストでした。あ~、860万円、許されるなら欲しい…。でも確実にもう1台、普段使いが必要だよな……。現実味がどんどん薄れていきました。

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