大人の男をジョー・ジャクソンに学ぶ、かっこつけなくてもかっこいい! 1986年 3月16日 ジョー・ジャクソンのアルバム「ビッグ・ワールド」がリリースされた日

シンプルだけどかっこいい、ジョー・ジャクソンは大人の音楽?

ニック・ロウが80年代の十代にはジャンル分けできない人だったことは以前のコラム『ビートルズのいない80年代、そこにはニック・ロウがいた!』で書いたけれど、同じ英国のアーティストではジョー・ジャクソンもそのひとり。『ナイト・アンド・デイ』『ボディ・アンド・ソウル』を聴き、80年代当時の流行りの曲に比べて音数が少ないことに驚いた。シンプルだけど、鳴るべきところで音がきちんと鳴る。なんだかよくわからないけど、かっこいい。大人の音楽だなあと、田舎の高校生は妙な納得をした。

1986年、田舎の高校生は上京して田舎者の大学生になる。折しもバブルに向かって一直線の時代。見栄講座的な本が人気を博し、雑誌をめくればファッションからナンパの仕方までバカ丁寧に解説している。くだらねえなあと思いつつ、でも田舎者に見られるのも恥ずかしい。そんな揺れの中で、とりあえず丸井のカードを作って DCブランドのジャケットを買ってみたし、何事もスマートにこなしたくてマニュアル本も読んでみた。

「ホームタウン」の歌詞にあるシティ・スリッカーズって、なんだ?

“シティ・スリッカーズ” という言葉を耳にしたのは、この年にリリースされたジョー・ジャクソンの『ビッグ・ワールド』収録の「ホームタウン」の歌詞から。このアルバムは輸入盤で買ったのだが、6か国語訳の歌詞がブックレートに載っていて日本語訳も掲載されていた。

それによるとシティ・スリッカーズとは “都会の格好ばかりつけたがる人間” という意味。このフレーズに前後して、「♪ 僕たちは皆、頭がいいと思っている~世渡り上手だ~そして辛い目に遭うと痛みを殺して移動する」と続く。

確かに、実生活をスマートにこなしているつもりでも何度も行き詰っていた。学校も、生活も、恋愛も。その度に移動、すなわち逃げたり、逃げ切れずに玉砕したり。望郷を歌う「ホームタウン」は、そんな当時の自分にフィットし、シティ・スリッカーズから大人に向かうための指標になったのでした。

ちなみに『ビッグ・ワールド』はライブ形式の一発録り。ジャクソンを含むわずか4人で演奏された曲は、相変わらず音数は少ない。虚飾も贅肉もない。そこがイイ。かっこいい大人とは、大人の音楽とは、そういうものだ。

※2017年3月14日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: ソウママナブ

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