「オーナー企業」の株価パフォーマンスは良いのか、悪いのか

社長が自社の持株を多く保有している会社というと、どんなことをイメージしますか。社長が創業者だったり、それを一族が受け継いでいる会社を想像する方も少なくないでしょう。

ともするとワンマン経営が想起されるため、そういった会社に投資して株主になっても魅力があるのかな、と疑問を持つかもしれません。そこで、社長の株式保有比率と株価の関係を調べてみました。


社長の持株比率が大きいと何が起きるか

株式投資をして株主になって何がうれしいかといえば、株価が上がったり、配当をもらったりすることです。とはいえ、株主になっても、直接会社の経営をするわけではありません。実際に会社を経営するのは、社長を中心とする取締役などの経営陣です。

株主は大勢いますし、サラリーマンだったり自営業だったりと、それぞれ自分の仕事をしている方も多いでしょうから、会社の運営は経営陣にお任せするわけです。したがって、経営陣は本来、株主のための経営を行う必要があります。こうした関係を「コーポレートガバナンス」と言います。

ガバナンスが働かない究極の例を考えてみましょう。社長の経営が杜撰(ずさん)で、会社の利益が赤字だとします。株価も下がり、配当を続けることも厳しくなるでしょう。

とはいえ、社長が自分で報酬を決められる立場なら、多額の報酬を受け取り続けるかもしれません。あるいは、役員から反感を買うと思えば、役員にも大盤振る舞いするかもしれません。これでは、株主はたまったものではありません。

これはあまりにも極端な例ですが、社長が大株主だったらどうでしょう。会社の業績が赤字で株価が下がってしまうと、自分の保有する株式の資産価値が下がってしまいます。ですから、社長の株主保有比率が大きければ大きいほど、社長が一般の株主と同じ目線で損得を考えて経営を行うというモチベーションにつながるわけです。

株価パフォーマンスを検証すると…

そうなれば、社長の持株比率が高い企業は将来の株高も期待できます。そこで実際に社長持株比率と株価パフォーマンスを調べてみました。

毎年1回、9月末時点で取得できる情報を使って、東証1部企業を対象に社長持株比率を調べます。そして、持株比率が大きい上位2割までの会社と、逆に持株比率が低いほうから2割までの会社をそれぞれ抽出します。

東証1部企業は2,000社以上ありますので、それぞれ400社以上が選ばれます。そして、持株比率が大きい企業の平均株式パフォーマンスと小さい企業のパフォーマンスを毎月比較して、その差を2020年1月までで平均してみました。

下表は、見やすいように年率ベースに直しています。つまり、年間を通じて「持株比率が大きい企業」と「持株比率が小さい企業」が平均的にどの程度リターンに差があるかを見ることができます。

【東証1部上場で社長持株比率が大きい企業と小さい企業の株式パフォーマンス格差】

(注)社長持株比率が「大きいほう」から2割の企業と、「小さいほう」から2割の企業の月次株式収益率の平均を年率換算する。そして「リターン差」は「大きいほう」から「小さいほう」を引いて算出。役員持株比率は、社長持株比率の代わりに役員持株比率を用いた場合の結果を示している (出所)日本経済新聞社(日経cgs)のデータを基にニッセイアセットマネジメント作成

分析結果はリターンの差がプラスとなり、社長持株比率が大きいほうが小さいほうより、株式パフォーマンスが上回っていることがわかりました。

役員の持株比率だとどうなる?

実は、似たような観点で、役員持株比率でも分析ができます。役員の保有比率が高ければ、役員の仕事のモチベーションにつながるからです。

こちらもリターン差がプラスとなり、役員の持株比率が高い企業のパフォーマンスが低いほうを上回りました。ただ、社長持株比率のほうがリターン差が大きいことは注目に値します。やはりそれだけ経営への影響力が大きいということでしょう。

このような社長持株比率と株式パフォーマンスは学術的な研究が行われてきました。

米国企業を対象に気になる報告も見られており、ある程度を超えると、社長の保有比率の増大は他の株主に対してデメリットになる戦略をとる可能性もあるということです。しかし、あくまでも可能性であり、こうした報告でも基本は社長の持株比率が高いと株式パフォーマンスも概して高いことが示されています。

上場企業が公表する有価証券報告書は、会社のウェブサイトで閲覧可能です。その中で大株主の保有状況が公開されています。

今回分析した社長の持株比率が上位2割の企業に関して、保有する比率の水準は5%程度です。つまり、5%を上回って社長が保有している企業の株式パフォーマンスが良いという傾向がわかります。銘柄を選ぶ際には、有価証券報告書からこうした情報を探すことも効果的な銘柄選別方法となるでしょう。

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