終わりではない

 娘さんは以前、児童寮に入っていた。一時帰宅すると、最初のうちは寮に戻るのをとても嫌がったという。「パニックを起こして大変だったけれど、うれしい気持ちもありました」。美帆さんの母親は手記に書いた▲相模原市の知的障害者施設で入所者ら45人が殺傷された事件で、19歳の美帆さんは命を奪われた。母親は、植松聖被告(30)の初公判に合わせて手記を公開し、その中には「会いたくて会いたくて仕方ありません」という一文もある▲いとおしさにあふれる手記をつづった母親は、公判で「美帆を返して。絶対に許さない」と訴えた。まるで反省の色のない被告には、激しい怒りを向けている▲横浜地裁はきのう、被告に死刑判決を言い渡した。法廷で被告は、重度障害者を「不幸のもと」と言い、事件を「社会の役に立つ」と語ったが、心の底が明らかにされたとは言い難い▲存在してもいい人、存在してはいけない人-とより分ける。命の軽重までも決め付ける。独善の極みだが、そうなるのにどんなきっかけ、いきさつがあったのか。疑問符がまだ残る▲美帆さんの母親は判決後、「これで終わりじゃない。社会でも考えて」と話したという。より分け、決め付けはこの社会にも潜んでいないか。そういう問い掛けなのだろう。判決が出て、終わりではない。(徹)

 


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