「新庄2世」が与田中日でブレークなるかートレード移籍で取り戻した「小学生の心」

中日・武田健吾【写真:小西亮】

19年途中に中日へトレード移籍した武田は外野の定位置奪取へ長打力を発揮

 表情を見れば、心のうちがすぐ分かる。オリックスから中日に来て、2年目のシーズン。武田健吾外野手は、噛みしめるように言う。「楽しいですね」。決して、古巣がそうでなかったわけじゃない。新天地で見出した自らの可能性に、ワクワクが止まらないようだ。

 振り返れば、花開きかけた時もあった。身体能力の高さと三拍子揃ったセンスから「新庄2世」とも呼ばれた高卒の外野手は、プロ5年目の2017年に頭角を表す。交流戦で全体3位となる打率.382をマーク。シーズンを通しても97試合に出場した。

 しかし翌18年はスタメンに定着できず、どんどん存在感が薄れていく。「結果を出すために、ああしなきゃ、こうしなきゃって考え過ぎていたところもありました」。期待値の量だけもらう数多の助言を、自らで消化しきれない。もちろん結果は伴わず、さらに迷いに入り込む。そんな悪循環に陥ってしまっては、純粋に野球に没頭しているとは言い難かった。

 19年も開幕から長く2軍暮らし。季節が夏へと向かうころに突然届いた知らせは、まさに救いの手だった。同僚の松葉貴大投手とともに、2対2の交換トレードで中日に移籍。驚きはあったが「僕にとっては、前向きなことだと思えました」。7月から1軍で2か月間プレー。与田剛監督が新たに就任し、首脳陣も大幅に入れ替わった「新生ドラゴンズ」の水も合った。

 この年はプライベートでも大きな変化も。春先に、3歳上の女性と5年間の交際の末に結婚。トレードで、一緒に名古屋に移り住んだ。「すごく賢い人で、一緒にいて落ち着きます」。愛妻の希望もあって、今は愛猫2匹も一緒に暮らす。「自分はもともと犬派だったんですが、かわいいっす」と相好を崩す。

“原点回帰”した野球への思い「今、ヒットを打つと素直にうれしいんです」

 迎えた移籍2年目。「失敗してもいいから、思い切っていけ」というコーチ陣の言葉が、能動的な考えを促す。キャンプは自ら課題を考え、思うように実践した。スイングの際に上体が突っ込む癖を矯正。「自分の中ではすごくいい」と手応えを感じる。キャンプ地が宮崎だったオリックス時代は花粉症が大敵だったが、飛散が著しく少ない沖縄では全く悩まされないという思わぬ“追い風”もあった。

「今、ヒットを打つと素直にうれしいんです。小学生の頃の気持ちを思い出すようで」。もちろん仕事としての使命感を忘れてはいないが、ただ野球が楽しい。キャンプ中の練習試合で2本塁打を放ち、オープン戦に入ってからも、2月29日の広島戦(ナゴヤドーム)で左翼スタンドへソロ。前向きな気持ちと真摯な姿勢は、徐々に結果に現れてきている。

 中日の外野は中堅の大島洋平、右翼の平田良介が盤石。左翼は現状、福田永将が有力だが、果敢に勝負を挑んでいく。開幕が不透明な状況でも、打席で示す姿は変わらない。「左ピッチャーは得意だと思っているので、まずは右の代打からでもいいのでアピールしていって、徐々に試合に出るチャンスを掴んでいきたいです」。名古屋では、しっかり花を開かせてみせる。(小西亮 / Ryo Konishi)

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