歌が彩る「新たな一歩」 生徒と教諭 合唱曲を制作

オリジナル合唱曲「わたしたちのうた」の歌声や、教諭らの拍手に送り出される卒業生たち=五島市松山町、福江中

 ♪後ろは振り向かず 明日へ進むだけ♪
 校舎のスピーカーから流れる歌声が、卒業生の背中をそっと押した。
 17日午前10時半、五島市立福江中。新型コロナウイルス対策のため「あっという間」の卒業式を終えた158人が、学びやを去ろうとしていた。辺りに響くハーモニーは、教諭と3年生が共同で作り上げた合唱曲「わたしたちのうた」。休校前「最後の1日」となった3日、学年全員で歌って録音していたものだった。
 昨年11月、学校生活の思い出を詩や短歌などで表現する国語の授業。野口麻紀教諭(46)は生徒にこう問い掛けた。「卒業式の日、何を思い出すかな」。級友への思い、寂しさ、未来への希望…。さまざまな思いを込めた作品が集まった。
 実はこの頃、野口教諭ら3年生担当教諭は、はなむけの歌を贈る構想をひそかに温めていた。野口教諭が集まった作品から印象的な言葉などを選び、歌詞を作成。音楽科の大貝紳一郎教諭(48)が曲を付けた。
 今年1月、大貝教諭がピアノで弾き語りし、3年生にサプライズで披露。生徒たちも気に入り、卒業式前に開く「送る会」で合唱することになった。
 だが2月末、新型コロナ感染防止のため、3月4日からの休校が決まった。当然、送る会もなくなった。
 休校前日の3日、最後の授業。「みんなが大好きな歌で終わろう」。急きょ、“音楽集会”を開いた。生徒と教諭が「わたしたちのうた」などを一緒に歌い上げ、CDに収録。「受験勉強であまり練習できなかったはずなのに、不思議と一体感があった」。大貝教諭は絆の強さに驚いた。
 卒業式当日。証書授与の間は合唱コンクールで各クラスが歌った合唱曲、退場の場面では式で歌うはずだった卒業曲「旅立ちの日に」を録音したものがそれぞれ流れた。在校生が出席できず吹奏楽の演奏もない中、少しでも式を盛り上げようと考えた教諭たちのはからい。涙ぐむ卒業生を、思い出の歌声が包み込んだ。
 最後の学活を終え、下校時刻ぎりぎりまで友人や教諭と記念写真を撮り続けた卒業生たち。やがて、恩師の拍手と響き渡る「わたしたちのうた」を背に、校門からそれぞれの未来へと歩き出した。
 ♪踏み出した一歩から僕だけの道が始まる いつかまた会えた時に 今よりも自分を誇れるように♪

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