阪神大震災から21年 兵庫県の住宅再建共済 開始10年 加入率低迷

 住宅約25万棟が全半壊した1995年1月17日の阪神大震災を教訓に、兵庫県が共助の新たな仕組みとして独自に創設した住宅再建共済制度が曲がり角を迎えている。被災した住宅の再建に対し、国の支援金の2倍となる最大600万円を給付する手厚い内容だが、開始から10年が過ぎた今も加入率は10%に満たず、当初見込んだ50%に遠く及ばない。県は「自助と公助の不足を埋められる仕組みであり、国による全国的な制度に発展させたい」と打開策を描くものの、実現の見通しは立っていない。

 被災者の抱える二重ローンが復興を妨げた教訓から全国初の試みとして2005年9月にスタートした「フェニックス共済」は、地震や台風、豪雪、噴火などで半壊以上となった私有住宅に10万〜600万円を給付。住宅の購入や補修に活用できる。一戸建てだけでなく、マンション居住者やアパートの所有者も加入でき、負担金は1戸につき年5千円と低額だ。

 県などが過去に行った調査では「地震保険で補償は十分」という住民の声が目立ったが、県復興支援課の担当者は「全壊した自宅を建て直す場合、自助である地震保険や公助の被災者生活再建支援制度(最大300万円)と組み合わせれば、2千万円近い家を新築することも可能」と、少ない負担で災後の不安を解消できる利点を強調する。

 しかし、昨年12月末時点の加入は16万5千戸余り、県全体で対象となる住宅の9・4%にとどまる。開始当初より加入のペースは鈍化しており、現在の目標である加入率15%の達成には「あと30年かかる」と担当者は頭を悩ませる。

 しかも、震災の被害が集中した神戸市など兵庫県南部は加入率が低迷。県は「自宅が震災の揺れに耐えたか、再建を済ませたから、再び被災することはないとの意識が住民にあるのではないか」と推測する。都市部に多いマンションでは、再建手法を居住者個人の判断で決められないという事情があることも、加入の足かせになっているとみる。

 震災で傾いた自宅マンションに住めなくなった神戸市内の70代の主婦は、制度の存在を知りつつも加入はしていない。再建されたマンションに居住しており、「入るべきなのだろうが、いざというときに本当に役立つのかどうか」と測りかねている。

 制度開始後の10年間でも兵庫は地震や風水害に見舞われてきたが、共済はそのたびに効果を発揮。県内で22人が犠牲になった09年の台風9号や13年の淡路島付近の地震などで283件、計約5億7200万円の給付実績がある。県は一部損壊も対象とする特約など制度の拡充も図ってきた。

 こうした試みは被災者支援のあり方を議論する国の検討会でも高く評価され、2年前に「制度が全国に広がることを期待する」との意見でまとまった。

 県も「自然災害の被害は特定の地域に集中しがち。そうした場合でも安定的に制度が運用できるよう全国的な仕組みになるのが望ましい」と訴えるが、内閣府の防災担当者は「被害規模が大きく、加入者の負担金だけで全体の給付額を賄えない場合に公費を投入する必要が生じる」と財政面の課題を指摘。今のところ国が関わる方向では検討しておらず、「地震保険なども含め、被災した場合に役立つ備えの大切さを呼び掛けていきたい」としている。◆耐震化も伸び悩み… 居住者高齢化で頭打ち 兵庫県内では、地震による被害を防ぐ上で欠かせない住宅の耐震化も伸び悩んでいる。県は1981年以前の旧耐震基準で建てられた住宅の改修事業を進め、今年3月までに耐震化率(新基準を満たす住宅の割合)を97%に引き上げる計画だったが、達成目標を10年後の2025年度末に先送りする方針だ。

 県によると、13年時点の耐震化率は推計85・4%。全国平均の82%よりは高いが、「居住者の高齢化が進み、改修は頭打ちの状態」(県建築指導課)だ。

 従来の改修に対する補助制度に加え、本年度から新たに建て替えにも100万円の助成を開始。家が倒れてもつぶれない防災ベッドの導入や屋根の軽量化にも助成するなど幅広く支援するものの、担当者は「いまだに制度を知らない人もいる」と教訓の風化を嘆く。

 震災で同県西宮市の自宅がつぶれ、高校生の長男を失った木造住宅耐震改修推進研究所の稲毛政信所長は「耐震化はもはや家主の気持ちで行うかどうかではなく、強制的に進めるべき時期に来ている。そのために補助率を一律7割に引き上げて国の責任で取り組めば、あと10年で終えられるはずだ」と新たな仕組みの必要性を唱える。

 神奈川県内の住宅耐震化率は13年で推計89%。改修に対する補助は市町村が行っているため、支援額にばらつきがあり、耐震化の進捗(しんちょく)にも地域差があるとみられる。

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