30代共働き夫婦「住宅購入したいけれど、不妊治療で出費がかさむ…」

読者のみなさんからいただいた家計や保険、ローンなど、お金の悩みにプロのファイナンシャルプランナーが答えるFPの家計相談シリーズ。

今回の相談者は、不妊治療で出費がかさんでいるという30代の夫婦。そんな中、住宅購入と老後資金をどのように考えていけばいいのでしょうか。FPの坂本綾子氏がお答えします。

住宅購入を考えはじめ、家計を見直したいと思っています。しかし、現在不妊治療をしているため、出費がかさんでいます。この先、子どもを授かれるかわからないものの、教育費は用意しておきたいと思っています。そんな中で、住宅ローンや、老後資金をどのように考えたらいいのか悩んでいます。アドバイスよろしくお願いします。

〈相談者プロフィール〉

・女性、34歳、既婚(夫:35歳、会社員)、子どもなし

・職業:看護師

・居住形態:賃貸

・毎月の世帯の手取り金額:55万円

・年間の手取りボーナス額:200万円

・毎月の世帯の支出目安:約40万円

【支出の内訳】

・住居費:7.8万円

・食費:6万円

・水道光熱費:2万円(夏は1.3万円)

・教育費:なし

・保険料:4万円(生命保険2万円、車両保険2万円)

・通信費:2万円

・車両費:1.5万円

・お小遣い:2人で5万円

・その他:10~12万円(不妊治療費含む)

【資産状況】

・毎月の貯蓄額:15万円

・ボーナスからの貯蓄:100万円

・現在の貯蓄総額:1000万円

・現在の投資総額:なし

・現在の負債総額:なし


坂本:ご相談ありがとうございます。不妊治療はお金もかかるし、精神的にも肉体的にも大変だと聞いています。1日も早く希望がかなうといいですね。

不妊治療、助成金の申請を忘れずに

ご存知かもしれませんが、不妊治療は自治体から1回15万円を限度に助成が受けられます。所得制限があり、国の基準では夫婦合算の所得が730万円(年収では900万円程度)まで。ご相談者は年収制限を超えています。

ただし、例えば東京都では所得で905万円(年収では1100万円程度)まで助成を拡大しています。念のため、お住まいの自治体に確認してください。

出産で大きく変わる家計、児童手当は教育資金として貯金を

では、住宅を購入し、子どもが生まれると、家計がどのように変化していくのか、予想してみましょう。現在は共働きで世帯の手取り年収は860万円。このうち年間で280万円を貯蓄しています。貯蓄率は約33%。まだ子どもがいないので余裕があります。

今後の変化について支出から見ていきます。子どもが生まれると、共働きの場合、必要となるのが保育料です。月に数万円程度の保育料がかかるのは、生まれてから2歳まで。3~5歳児は、2019年10月の消費税率10%の引き上げにともない、親の収入にかかわりなく保育料が無償化されました。

子どもが成長するにつれ、食費や水道光熱費などの生活費も徐々に増えていくでしょう。教育費は、どんな習い事をさせるか、進路によっても異なりますが、特に支出が増えるのは大学生の時期です。事前に貯蓄で教育資金を貯めておきたいのは、大学の授業料など。

子どもが生まれると中学を卒業するまでは、通常の年収なら月1万円の児童手当が自治体から支給されます。総額で200万円弱になるので、最低限この分は教育資金として貯めてください。

マネープランの要は、出産後も共働きを続けられるか

収入はどうなるでしょうか? 妻が産休や育児休業を取ると、その分、収入が減ります。ただし、健康保険や雇用保険から、給与の半分~3分の2程度の給付が受けられます。仕事は看護師とのことですが、出産後も仕事を続けられそうですか? 共働きを続けるかどうかが今後のマネープランを考える際のポイントとなります。

子どもを持つことで一時的に妻の収入が減ったとしても、その後は持ち直し、現在の収入を維持できる前提で、次に住宅購入と老後資金の準備について考えてみます。

住宅ローンの返済月額を今の家賃と同じにするのが危険な理由

住宅購入の予算をいくらにするかは、いくつかの考え方があります。

今回は、支払っている家賃をもとに考えてみます。毎月の家賃は7.8万円、ほぼ同程度の毎月8万円を住宅ローンの支払いとすると、金利1%、返済期間30年(すぐに購入すると返済終了は夫65歳、妻64歳)なら、約2500万円の借り入れができます。手持ちの貯蓄から頭金と諸費用として500万円程度出すと、2800万円程度の住宅を購入できます。

考えていた予算よりも低いと感じたかもしれません。ご相談者の年収をもとにした計算では、不動産会社や金融機関からは4000万円程度の物件を勧められるでしょう。

実際には、ローンの支払いは月8万円でも、賃貸では不要だった固定資産税や、マンションなら修繕積立金や管理費が必要になります。物件によりこの費用は異なりますが、月あたり2万~3万円前後は見込んでおいたほうがいいでしょう。つまり家賃並みのローンでも、月2万~3万円は負担が増えることになります。また持ち家は、住宅の修理やリフォーム費用も自分持ちですから、不定期にまとまった費用が必要になります。

車をお持ちですが、出産後も子連れで出かけるのに車が必需品なら、車の買い替え費用も発生します。住宅を購入し子どもが生まれた後は、「その他の支出」に含まれていた不妊治療の費用がなくなる代わりに、こういった持ち家の維持費や、子どもの成長にともなう生活費が増えるわけです。

年齢が上がり、仕事上の役職なども上がって収入が増えれば、増えた分でカバーできる可能性はありますが、収入が変わらなければ、現在33%の貯蓄率は、低下していくでしょう。毎月のローン返済が家賃相当額よりも高い住宅を買った場合は、収入が変わらなければ、さらに貯蓄率は低くなります。

老後資金として手取り10%は貯蓄を

先ほどと同じ条件で、住宅ローンの借入をあと500万円増やして3000万円にすると、月当たりのローン返済額は約10万円になります。維持費を含め、住宅のための支出が現在よりも5万円ほど増えます。このあたりが限度ではないでしょうか。

なぜなら、老後資金の準備を考えると、毎月の貯蓄額は手取りの10%、5.5万円を維持したいからです。ご相談者は、ご夫婦ともに30代半ばとまだ若いので、毎月5.5万円の貯蓄を取り崩すことなく続けていければ、公的年金を受けとる65歳までには元本で1980万貯まります。勤務先の退職給付の状況がわかりませんが、共働きで老後は二人分の厚生年金を受け取れるので、自助努力で貯めた元本1980万円と退職金などがあれば、それほど心配はいらないでしょう。

勤務先に確定拠出年金があれば投資信託で運用する、なければiDeCoや、つみたてNISAを使って、毎月の貯蓄の一部を運用していくことも検討してください。

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