6球団スカウト注目の日体大・森が巨人3軍戦で150キロ 結果に不満も感じる可能性

今秋のドラフト上位候補の最速155キロ右腕、日体大・森博人投手【写真:編集部】

抜け球ありの押し出し四球…「技術不足」と本人反省、G内田スカウト「まだまだこれから」

 昨秋のドラフト会議前のこと。プロ志望届を提出し、日体大・吉田大喜投手(現ヤクルト)と北山比呂投手(東芝)の取材に日体大の野球部のグラウンドへ。2人のブルペン投球を見終わった後、元中日投手だった辻孟彦コーチに「来年もいい投手がいるんです。ぜひ見ていってください」と声をかけられた。その投手は森博人投手(3年=豊川)だった。当時の最速は154キロ。カーブとの緩急差がすごかった。最上級生になった森が17日、巨人3軍とはいえ、プロ相手のマウンドに立った。6球団のスカウトが見つめていた。

 結果は……制球に苦しんだ。2回を打者10人、被安打3、4四球に2三振。押し出しの四球で1点を許した。球場の表示では147キロだったが、ネット裏の巨人のスピードガンでは150キロが1球だけ計測された。140キロ後半は出ていたが抜け球が多く、本来の出来とはかけ離れていた。

 それでも前を向けた。不満だった内容については、何がいけなかったのかを自分自身で分かっているから。

「(自分の)技術不足です。力んでしまったり、抜けたりというのは力を入れて、腕だけ投げてしまうから。ブレを少なくするという点では、しっかりと体ごと、体幹を使って、投げられれば低めに制球できていくのかなと思います」

 試合後の日体大・古城隆利監督の目にも「プロが相手で力んでしまうこともある。通常とは違う力を出しているかもしれない」と映った。体幹や下半身にしっかりと力を貯めて投げる普段の森とは違う姿があった。巨人・内田強スカウトは「今日は下半身と上半身のバランスがよくなくて、制球を乱していた。元々、いいポテンシャルを持っているから、まだまだこれからですよ」と長い目で見ていく。今はそういう段階だ。

 2018年は2枚看板だった松本航投手(現西武)がドラフト1位。東妻勇輔投手(現ロッテ)がドラフト2位。一学年下にはヤクルト2位の吉田大喜。北山は社会人・東芝へと進んだが、2年後にプロ入りする可能性は高い。大学日本代表「侍ジャパン」にも選出されるようなチームのエース級は古城監督、辻投手コーチらスタッフの指導により、良き成功例のもと、大学4年間かけてじっくりと育成されている。プロにいける能力があり、指導者と選手の考え方の方向性が同じであれば、森も同じようにこの1年で更なる成長を遂げる可能性は十分にある。

視線の先にいたのは同い年の巨人ドラフト2位の太田龍投手、2回無失点の内容に刺激

 巨人3軍戦での課題を「制球」以外の点で、森自身は「ストライク、ボールがはっきりしていたこと」「遊び心を持って投げたい」というポイントを挙げた。

 視線の先には、巨人の2番手登板したドラフト2位ルーキー・太田龍投手がいた。2回1安打無失点と制球良くまとめていた。森は「意識はしていないです」と話したが、ストライクとボールをしっかりと投げ分けていた。自分との立ち位置の違いを目に焼き付けた。

「向こうの方が、プロ野球選手ですから(笑)。(太田だけでなく同世代のプロたちは)力感なく投げていましたね。今すぐできることではないですけど、そこで小さくなったら、自分の良さは消えてしまうというのもあるので、まずは強い球を投げていきたいとは思います」

 森の直球の威力に打者が押される場面は何度もあった。それが身体をしっかり使って、最速155キロを投げる右腕の魅力でもある。その速球を生かすために「もう少し、遊び心を持って投げたい」という。変化球の精度を上げることだ。

「今日も走者が詰まった状態で、直球やスライダーの二択でした。カーブだったり、ツーシームだったり、今やっておかないと、リーグ戦でも切羽詰まった時に投げられないと思うので、今後の登板で試していきたいなと思います」

 独特な間合いのフォームから150キロ超えの直球に、緩急自在の投球がブルペンだけでなく、高いレベルで投げられるようになれれば、森の未来は明るく広がっていく。プロアマ交流戦は、将来、プロを目指す投手にとっては貴重な場所となった。

 日体大の所属する首都大学野球リーグは現状では4月4日の開幕を予定(3月18日現在)している。

「今の感じからするとあまり(自分の)状態はいいようには見えないんですけど、自分の中でもそこは焦らずに、徐々に徐々に上げていければ、と。リーグ戦を通して、投げられるようにして行けたらいいなと思っています。調子が悪いからって、気持ちばかり焦ったり、前に出てしまうと、あまり良い事では無いので、そこは落ち着いて、できることをしっかりやる。そこを崩さず、焦らないでやっていきたいなと思います」

 スピードボールを持っているからといってプロになれるとは微塵も思っていない。自分の中での信念を曲げず、取り組んでいける自信と考え方がしっかりと根付いているようだ。 「来年もいい投手がいるんです。見て行ってください」――。辻コーチの言葉に裏付けられていたのは、ボールだけではなかった。このような考え方にもあったのだと思う。(楢崎豊 / Yutaka Narasaki)

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