「VWポロより100万円高い理由がある」全方位で大幅に進化/アウディA1実践インプレッション

 話題の新車や最新技術を体験&試乗する『オートスポーツweb的、実践インプレッション』企画。お届けするのは、クルマの好事家、モータージャーナリストの佐野弘宗さん。

 第4回は、8年ぶりにフルモデルチェンジしたプレミアム・コンパクトハッチバックの新型アウディA1スポーツバックを取り上げます。ホイールベースが95mm長くなったことによる居住空間の“余裕”、最新の運転支援システム、新開発1.5リッターエンジンなど、話題は多数。全方位で進化を遂げた新型の魅力を掘り下げます。

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■アウディの入門モデル「他車を寄せ付けないクオリティの高さ」

 A1スポーツバック(以下、A1)はアウディで最小となるコンパクトハッチバックで、日本では2019年末に発売された最新モデルは通算2世代目となる。

 新型A1も先代と同じく、アウディも属するフォルクスワーゲン(VW)グループ全体で共用されるコンパクトカー用の最新骨格モジュール『MQB-A0』をベースとしている。

 つまり、VWポロとはいわば兄弟姉妹の関係にあるわけで、両車はボディ形式もボディサイズもよく似ている。

 日本に導入される新型A1は、ひとまず『35TFSI』という1.5リッター直列4気筒ターボ搭載車のみとなる。写真は日本発売と同時に250台限定で用意された『ファーストエディション』だが、その商品内容は『35TFSI』に主要オプションをあらかじめ装備したもので、クルマの基本構成や実質価格はカタログモデルと変わりない。

 A1と同じ1.5リッターターボエンジンは兄弟車のVWポロにも『TSI Rライン』に搭載されている。同じエンジンを積むA1とポロの価格を装備内容を揃えて比較すると、A1のほうがおおざっぱに100万円ほど高い計算になる。

 VWグループ全体のブランド戦略では、“アウディはVWより高級”と位置づけられているので、A1のほうが高いのは当然だ。

 もちろん、アウディA1は“ただ、高い”というわけではなく、ポロよりもコストがかかっていそうな凝ったディテールが多い。

 たとえば、フロントグリルの上にある三連モチーフは往年の『スポーツクワトロ』で特徴的だったボンネットインテークを模したものだ。

 A1のそれは実際には開口していない、ただのデザイン加飾なのだが、こういう“裏打ち”が必要な意匠は量産品では意外なほどコストがかかる。

新型A1のフロントグリル。三連モチーフは往年の『スポーツクワトロ』で特徴的だったボンネットインテークを模したもの

 また、リヤのコンビランプはポロのそれより明らかに横長で大きく、ボディとゲートに橋渡しされる2分割式。これまたコストは安くない。

新型アウディA1スポーツバックのリヤスタイル

■先代以上に完成度の高いインテリアのクオリティに脱帽

 インテリアもしかりだ。メーターパネルと純正インフォテインメントに高解像度カラーTFT液晶パネルを用意するのはポロと同様なのだが、インフォテインメントの液晶パネルはA1のほうが明らかに大きい。

 ダッシュボードのメーターフードまわり、助手席前の空調ルーバーを模した加飾パネル、中央のエアコンパネル、そしてドアインナーハンドルなどを見ると、部品点数も各部品の仕上げも、ポロのインテリアより、ひと手間ふた手間、あるいはそれ以上にかかっていることは間違いない。

 こういうところが、A1の価格がポロより高い理由のひとつである。ただ、先代のA1と比較すると、高級コンパクトカーとしての根拠が、先代にあたる初代A1とはちょっと趣きが異なるのも事実だ。

インストゥルメントパネルを運転席側へとわずかに傾斜させるなど、コクピットと呼ぶに相応しいつくり

 たとえば、初代A1のインテリアは同時代のポロより明らかに柔らかく手ざわりのいいソフトパッド素材を使っていたが、新型のインテリアはそういう高級素材より、デザインなどの“見せる”工夫に重きを置いている。

 また、先代はエンジンルームの静粛対策でも、同世代のポロより明らかに凝った構造になっていたのに対して、ボンネットやドアを開けて見比べるかぎり、新型A1とポロではハードウェアとしての静粛対策に大きな差はない。

 もっとも、古典的な高級素材よりビジュアル装備を重視する手法は、現代の高級車に共通するトレンドではある。現代のクルマづくりでは、骨格モジュールの基本性能を引き上げて、商品ごとの細かいつくり分けを減らす効率重視の設計思想が主流だ。よって、新型A1のつくり方はいかにも今っぽいといえる。

 ただ、われわれシロートから見て、新型A1ではポロに対する分かりやすい高級感がちょっと物足りないのも事実だ。A1は乗り心地や静粛性の面でも、ポロとのちがいは初代より見出しにくい。

 これは2018年にフルモデルチェンジしたポロの質感が底上げされたからでもあるのだが、実物の高級感は初代より差が縮まったように見えるのに、価格のほうはそれほど近づいていない。

A1スポーツバックのフロントシート。黒を基調にしたスポーティ&シックな印象
ホイールベースが95mm拡大したことで、居住空間に夜余裕が生まれた

■「見た目も走りも一段とスポーティさが増した印象」

 しかし、新型A1の名誉のためにいっておくと、古典的な高級車の価値観では分かりやすさが薄れたが、走り味は明確にスポーティさを増しており、そこが新型の個性である。

 乗り心地や静粛性はたしかに物足りないが、そのぶん、ハンドリングは俊敏でエンジン音も心地よく調律されている。身のこなしは路面にフラットに低く張りつくゴーカート的なもので、アシは基本的には引き締まっているのに、細かい路面不整やワダチなどには印象的なほど進路が乱されにくい。

 これはサスペンションの横剛性や各部のフリクションが小さいからだろう。さすが高級車だけに、サスペンションなどに、他社コンパクトカーよりの高精度な部品を使っている可能性が高い。

 こうして実際に乗ってみると、前記の三連インテークに強く傾斜した極太リヤクォーターピラー、そして全高の低いプロポーションなど、新型A1のデザイン特徴も、乗り味との整合性という意味で説得力が増す。

 ただ、それにしても、もう少し安ければ……というか、ポロとの価格差があとわずかに小さければ……というモヤモヤは、正直なところちょっとある。そんな新型アウディA1もひとまず日本上陸ホヤホヤである。

 今後はより手頃、あるいはより高級なバリエーションが追加されるのは間違いなく、現在のこのモヤモヤも、遠くない将来に手当てがなされるとは思う。

新型A1スポーツバックのラゲッジルーム。容量は先代より65リッター拡大している

■アウディA1スポーツバック 35TFSI advanced諸元

車体

全長×全幅×全高 4040mm×1740mm×1435mm

ホイールベース 2560mm

車両重量 1220kg

乗車定員 5名

駆動方式 FF

トランスミッション 7速DCT

タイヤサイズ
215/45R17

エンジン種類 直列4気筒DOHCインタークーラーターボ

総排気量 1497cc

最高出力 110kW(150ps)/5000ー6000rpm

最大トルク 250Nm(25.5kgm)/1500ー3500rpm

使用燃料/タンク容量 ハイオク/40L

車両本体価格 365万円

■Profile 佐野弘宗 Hiromune Sano

1968年生まれ。モータージャーナリストとして多数の雑誌、Webに寄稿。国産の新型車の取材現場には必ず?見かける貪欲なレポーター。大のテレビ好きで、女性アイドルとお笑い番組がお気に入り

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