宇宙で使う望遠鏡を3Dプリント。生き物の様な設計手法を利用

金属のパーツを組み合わせて作ったこの生き物のようなものはいったい何でしょうか?
これはESA(欧州宇宙機関)がリードするチームが作った望遠鏡で、3Dプリントで作られたものです。望遠鏡は3つのメインパーツと、2枚の鏡を含む9つのパーツでできていて、アルミニウム合金の土台にプリントされています。この望遠鏡は地球大気を観測する衛星「Sentinel-5P」の装置「Tropomi」の前身となったものですが、NASAのミッションで使用されているオゾン監視装置(OMI)は2.8キログラムであるのに対しこちらは0.76キログラムで、測定の品質を落とさずに約73%も軽量化されています。

OMI、そしてTropomiを作ったドイツの研究所「TNO」のFloris van Kempen氏によると、3Dプリントの技術により複雑な構造の装置を少ないパーツで作ることができ、軽量化、設計・組み立て・テストを行うコストの削減にもなり、さらには非常に高品質なものを作ることができるようになったと言います。

望遠鏡を上から見たところ。Credit: ESA–SJM Photography

望遠鏡の見た目が結果として生き物のような形になったのは「トポロジー最適化」と呼ばれる設計手法によるものです。この手法により材料をどの部分に配置すべきかが決まり、ESAの材料技術者であるLaurent Pambaguian氏は「当初の設計では6本の足を6か所に接続するようにしていたが、4か所で済むといったいくつかの驚きがあった」と述べています。また、打ち上げまでに通常行われるテストである「熱真空試験」や「振動試験」を実施した後も、求められる性能を発揮できました。

人工衛星の支柱などで既に3Dプリントの技術は活用されていますが、このプロジェクトにより3Dプリントを宇宙開発に利用する道がさらに広がりました。ESAでは宇宙での3Dプリントの活用についてのガイドをまとめており、ガイドは来年にも公開される予定です。この望遠鏡の作成にはTNOの他にもヨーロッパの企業・研究所が参画しており、こうした連携が進んで低コスト・高品質な望遠鏡が増えていくといいですね。

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Image: ESA, TNO
Source: ESA
文/北越康敬

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