「守りで攻める」 夏への財産 力磨いた創成館野球部・上

チーム浮沈の鍵を握る投手陣。左右タイプの異なる選手たちが力を付けてきた=諫早市、創成館高野球場

 第92回選抜高校野球大会が新型コロナウイルスの感染拡大を受けて初の中止になった。2年ぶりに出場予定だった創成館の稙田龍生監督(56)は11日の中止決定後、かみしめるように言った。「今までやってきたことは無駄にはならない」と。甲子園で活躍するために積み重ねてきた努力の日々…。確かにそれは夏への貴重な財産になるはずだ。無念さを胸に再出発する選手たちとチーム内競争の様子を紹介する。

 25人。1、2年生の全部員ではない。投手だけの数である。甲子園でのメンバー入りは狭き門で、その背番号は重い。
 暖冬の今年。チームは1月中旬から紅白戦を約30試合こなしてきた。投手陣は「投げるのは直球だけ」「1人の打者に対して変化球は1球」などと段階を踏み、競ってきた。成績は数値化できるが、監督の稙田は強調する。「結果じゃない。打者との1対1の勝負に、常に集中できているかどうかを見極める」
 稙田が言う「勝負」に必要な一つは心。強打者の内角を突きたいのに怖がって逆球になっていないか。「打てるもんなら打ってみろ」という大胆さ、強さがあるか…。
 そして、技術と体力。カウントを整える変化球を最低二つは持っているか。打者の苦手な球だけではなく“狙い球を投げられるか”。例えば直球も、丁寧に高めへ外して投げれば打ち気の相手を飛球でアウトにできる。そのための球の威力や切れを身に付けているか。投球後の肘肩のケアはきちんとできているか…。
 稙田は「まだ、勝負にこだわっていない選手もいる」と手厳しい一方で「それなりの陣容になってきた」と手応えも口にする。4強入りした昨秋の九州大会でエースナンバーを付けた左の白水巧(2年)をはじめ、身長194センチ左腕の鴨打瑛二(1年)ら異なるタイプが着実に成長してきた。
 九州大会後に下手投げに転向した投手リーダーで右の近藤大地(2年)も全体の成長を一定感じている。「昨秋は変化球ありきの直球という配球だったけれど、球速がなくても投げ方で緩急をつけたりコースを微妙にずらしたり、直球ありきの変化球と心掛けている」
 そんな豊富な投手陣をリードするのは、稙田が三塁コーチャーとともに「私の右腕」と表現する捕手陣。各打者が嫌がる配球をしているか。ピンチのときこそ目配り気配りができているか…。こちらも投手同様、求められることは数多くある。
 正捕手の浦邊駿太郎(2年)は「九州大会は監督からのサインを見ながら抑えた。うれしかったけれど、よくよく考えれば、それが一番悔しかった」。打者の試合前の素振りや打席での表情、ステップなどを材料に「この打者ならあの球を投げればここに打つだろうなとか、今ならファウルになるなとか…」。指揮官に頼りすぎない“頭の体力”を養ってきた。
 個々のレベルアップに伴い、チームの持ち味の一つ、継投にも磨きがかかる。もちろんそれぞれに完投できる力があってこその継投ではあるが、浦邊は「いろいろな投手がいるから相手は的を絞りづらいはず」。白水は「誰からも“こいつなら仕方ない、やっぱりおまえだ”と思われる投球が必要」と慢心はない。
 選手たちが掲げている「守りで攻める」野球はこれからも進化する。
(文中敬称略)

 


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