「この状況ではありがたい」新型コロナ禍の中、海外からSFテストに参加したドライバーたちの声

 3月24〜25日、富士スピードウェイで行われた全日本スーパーフォーミュラ選手権の公式合同テスト。20台が走行し今シーズン初めての貴重なテストの機会となったが、新型コロナウイルスの影響が世界中に広がり、渡航もままならない状況になるなか、海外をメインに戦うレーシングドライバーたちに、その影響がどう及んでいるのかを聞いた。

■「クルマに乗る機会が全然ない」海外主戦場のドライバーたち

 2020年からドイツに拠点を移し、WEC世界耐久選手権のLMP2クラスに参戦する一方、スーパーフォーミュラにもエントリーしているのは山下健太(KONDO RACING)。ドイツでの暮らしについて聞くと「食材も何もかも違いますし、いろいろ苦労してますね……。3ヶ月もいると、日本が恋しくなっちゃいます(苦笑)」という。

 そんな山下だが、WEC第6戦セブリングに出場するために、3月にはアメリカに渡っていた。「1週間くらいアメリカに滞在して、ではいざセブリングに行こう……という2日前くらいに中止の決定が出ました」という。その後はドイツには戻らず、日本に帰国した。

「いまは実家暮らしですが、服とかドイツに置きっぱなしなんですよね。物理的に戻れないですし、どうするかな……と。仕方ないですけどね」

「幸い、レースに必要なものは全部持ってきていたので、それは良かったです。でもクルマに乗る機会が全然ないのが困っちゃいます。レーシングカーに乗るのはオースティンのWEC(2月)以来なんです。スーパーフォーミュラ、すっげえ速いですね(笑)」

 同じく「レースの1週間前からアメリカに入っていて、さあセブリングに行こう! という前の晩にキャンセルになって、すぐ帰ってきました。オースティン以来レーシングカーは乗っていないですね」というのは、中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)だ。

「ひさびさのSFなので疲れました(笑)。でも、今の世界の状況を見ていたら、多少の疲れはありがたいことだな、と思いますね」と一貴。

 今回感染対策をとりながらスーパーフォーミュラのテストができたとはいえ、チームにとってもそうだが、レーシングドライバーにとっては開幕が延期になり、モチベーションを保つことが難しいのではないだろうか? ただ一貴は「開幕戦がいつ……と決まるまでは、何も考えずに過ごすしかないとは思います。レースが近づけば勝手にモチベーションは上がると思いますしね。気にしていないです」という。

 また一貴は、「レーシングドライバーはまだヒマになるだけで、良いほうだと思います。商売をしているわけではないし、今のところ、お客様来ないと困る立場ではまだないので、そういう意味ではありがたいことです」という。

「この状況で何をするのかも大事なことですが、僕が行っていたジムが閉まって困っているんです……。自宅で何ができるかですが、いちばん難しいヤツです(笑)。ホント、自分との戦いですね」

 スーパーフォーミュラのドライバーではないが、レーシングカーに乗ることができず「仕事ください(苦笑)」と冗談めかして言うのは、今季FIA-F2に参戦予定の佐藤万璃音だ。今回、Buzz Racing Team with B-Maxに帯同し富士を訪れていた。

「ふだんはモナコに住んでいますが、僕が出国した次の日から、フランスに従って店も全部閉まってしまいました。それからずっと日本にいますが、することがないです(苦笑)」と佐藤。

「ヨーロッパでは外出もできないですからね……。逆に日本にいる方が安全だと思います。レーシングカーは、バーレーンでのFIA-F2のテスト以来乗っていないですね」

山下健太(KONDO RACING)
中嶋一貴(VANTELIN TEAM TOM’S)
セルジオ・セッテ・カマラ(Buzz Racing Team with B-Max)と佐藤万璃音

■ヒヤヒヤの来日。外国人ドライバーたちはしばらく日本に滞在へ

 一方、今季も多くの注目のドライバーが参戦する外国人ドライバーも、渡航の難しい状況のなか、早めに日本に入ることでなんとかスーパーフォーミュラテストに参加することができた。ユーリ・ビップス(TEAM MUGEN)は10日ほど大阪で過ごし、富士入りしたという。

 また今季から参戦するThreeBond Drago CORSEの道上龍監督が「来られるかどうか……」と危惧していたタチアナ・カルデロンだが、「来る時はとてもヒヤヒヤもので、本当は3月19日に来る予定だったのだけれど、渡航できないかもしれないと聞いて無理に早い便をとったの。当初予定していたフライトだったら、たぶん入国できなかった。1〜2日で違ったから、けっこう綱渡りだった」という。

「でも、ここに来られて良かった」とカルデロンはスーパーフォーミュラドライブを果たせたことを大いに喜んでいる様子だった。

 スーパーフォーミュラのドライブをこなせたということを喜んでいるのは、セルジオ・セッテ・カマラ(Buzz Racing Team with B-Max)も同様だ。

「今回スーパーフォーミュラをテストできたことはすごく特別だ。日本は今の段階では新型コロナウイルスへの対応がどちらからというとスムーズだし、ヨーロッパでは家からも出られないけれど、日本では、すでに生活が通常に近い印象を受けた。だから、こういう状況でレーシングカーをテストすることができたのは本当に特別だと思う」とセッテ・カマラ。

 ただセッテ・カマラもカルデロンも、来日したまではいいが、今度は帰宅ができなくなってしまった。「この状況だからね。しばらくは日本に滞在する予定だよ」とセッテ・カマラ。

 同じくスペインに戻れなくなったカルデロンも「どうしたらいいか分からないの!」と苦笑い。

「でも日本に来られて嬉しいし、いつ帰ることができるか分からないけれど、ずっといるのであれば、逆に日本についてもっと学ぶことができると思うから、逆にラッキーだと思ってる」

 日本を拠点にして活動しているサッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)は、「来月アルゼンチンに一度帰る予定だったんだけど、移動の間のリスクもあるし、アルゼンチンで隔離されて、日本に戻ってもまた隔離されて、1ヶ月経ってしまうだろう? だから東京の自分の家にいるのがいちばん安全だと思うね」という。

「またスーパーフォーミュラに乗られて良かったよ。素晴らしく速いマシンだからね。それにしても、こんな状況は初めてだよね。スーパーフォーミュラの開幕戦で鈴鹿を走るのをすごく楽しみにしていたんだ。でも延期になってしまって、やっぱり少しガッカリしたよ」

「レースができるかも……でも延期……というのはやっぱりモチベーションを保つのが難しいよね。でも、自分でしっかりトレーニングをしたりして、気持ちを保っていきたいね」

タチアナ・カルデロン(ThreeBond Drago CORSE)
サッシャ・フェネストラズ(KONDO RACING)

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