未来への入り口

 小説家、随筆家の内田百閒(ひゃっけん)は「目の中に汽車を入れて走らせても痛くない」ほどの鉄道好きで、用もないのに汽車で遠出をしたらしい。それほどの愛着を持つ人はまれだとしても、一新されたJR長崎駅を訪ねると、できたての美しいホームを背景に、列車の写真を何枚も撮る人を多く見掛けた▲ホームを覆う白い屋根は丸く、優しい弧を描き、陽光を透かす。稲佐山が見え、ホームの端からは長崎港を望んだ。街並みに溶け込むような情趣が駅全体に漂う▲線路は高架化され、列車に乗ってみると車窓の景色がすがすがしい。高校生の頃の通学でも、その後の通勤でも、長いこと乗り降りしてきた浦上駅の真新しい姿に、じっと見入る▲長崎駅は150メートルほど西に移った。そのあたりはこれから、大規模なイベントや会議ができる施設、高級ホテル、新駅ビルが造られて、風景はさらに塗り替えられる▲肝心かなめの新幹線は、在来線特急と乗り継ぐ形でスタートするが、いずれ新幹線が多くの人を運び、施設が多くの人を呼び込んで、活気ある町を目指すという▲一新された長崎の玄関口は「県都再生」という未来への入り口でもある。人口は減少の一途をたどり、楽観してはいられないが、できたての“扉”から希望の光が差し込んで、長崎への愛着がもっと広がるといい。(徹)

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