新型コロナウイルス感染症:「米国は難民申請者にも新型コロナウイルス対応を」MSFが訴え

米国政府は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大抑止を名目に、難民申請手続きの停止とメキシコとの国境の閉鎖を決定した。

国境なき医師団(MSF)は、この政策により、保護を求める多くの人びとの健康と安全が脅かされると懸念。米国は新型コロナウイルス感染症対応の対象に難民申請者を含めるべきと訴えている。 

難民申請者や移民が密集状態で生活するキャンプ(メキシコ)© MSF 

難民申請者や移民が密集状態で生活するキャンプ(メキシコ)© MSF 

強制送還される難民申請者

3月21日以降、MSFは、メキシコや中央アメリカ出身の移民や難民申請者が、米国からメキシコ・マタモロス市やさらに南の地域へ強制送還される様子を目撃。公衆衛生や人道的な観点からの対応策なしに、こうした措置が組織的に行われていることに警鐘を鳴らしている。

「難民・移民に対する国際的な責任を逃れるための言い訳に新型コロナウイルス感染症を使うのは、決して受け入れられるものではありません。感染抑止の面でも逆効果です」メキシコと中央アメリカでMSF医療コーディネーターを務めるイザベル・ベルトラン医師は指摘する。「このような措置に必要性も妥当性もありません。特定の集団を差別・蔑視するものであり、暴力を逃れ、保護と安全を求める人びとの妨げになるだけです」

MSFは、これまでに世界各地で数多くの感染症の流行に対応してきた。その経験から、公衆衛生対策は、あらゆる人を守ることで効果を発揮し、移民など脆弱な立場の人びとを除外すると成功しないということが明らかになっている。

また、MSFがたびたび指摘しているように、いわゆる「移民保護プロトコル(MPP)」(※)などの、メキシコが履行する米国の移民政策は、メキシコ側で難民申請の手続きを待たされる人びとの命を損ないかねない。彼らは危険な地域に留め置かれ、新型コロナウイルス感染症の流行拡大によりさらに厳しい状況にさらされている。

※移民保護プロトコル(MPP):審査期間中、保護申請をした移民をメキシコ側で待機させる制度 

キャンプでの感染予防は不可能

新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、MSFはメキシコで行ってきた包括的な医療援助の維持と拡大を図りつつ、同国の保健ニーズを注視。日常的に医療が受けられない人びとがウイルスの広まりやすい不安定な環境で生活しており、今回の感染拡大が彼らに及ぼす影響が懸念される。

「およそ2000人の難民申請者が身を寄せるキャンプで、包括的な医療ケアが不足していました。そこで私たちはマタモロス市での活動を拡大し、心身の健康を支えるとともに、健康教育も行っています。しかしここでは、共有スペースの消毒やこまめな手洗い、周囲の人との距離の維持といった感染予防策を、適切に実践することは不可能です。1つの小さなテントで家族全員が寝起きしているような場所なのです」とベルトラン医師は訴える。

MSFは米国とメキシコの両政府に、移民や難民申請者など困難な状況下の人びとも対象に含めた、包括的な感染防止策や医療援助を行うよう求めている。

メキシコのMSF活動責任者マルセロ・フェルナンデスはこう呼びかける。「いま人びとが最も心配しているのは、今後の見通しが読めないことです。彼らの寝る場所は、最低限の感染予防策さえとれない、過密状態の場所しかありません。ウイルスの世界的流行による深刻な問題が明らかになっているいま、医療関係者は互いに連携して、弱い立場に置かれた人びとを予防策や感染封じ込め策に取り込むことが不可欠なのです」 

MSFはキャンプでの医療援助を拡大している © MSF

MSFはキャンプでの医療援助を拡大している © MSF

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