エロ本の自動販売機とTOTO「ロザーナ」早打つ鼓動を抑えつつ… 1982年 4月1日 TOTOのシングル「ロザーナ」がリリースされた日

君は覚えているか!? 80年代に存在したエロ本の自動販売機

驚くべき事だが1980年代中盤まで、街にはエロ本の自動販売機というのが存在していた。

ご記憶の方も多いと思うが、大きさはジュースの自動販売機と同じくらいで、前面が総ガラス張り、タテ3列、ヨコ3冊の合計9冊ぐらいがディスプレイされていた。ただし、そのガラス面には特殊なフイルムが貼ってあり、昼間は太陽光に反射して鏡のようになってしまい中が見えないようになっており、夜になると漸くバックライトが点灯され、商品が見られるような仕掛けになっていた。

当時私は高校2年生だったのだが、結構童顔だったので本屋でエロ本を買うのは躊躇された。本屋でエロ本を買うことが出来ない私は、自ずと自動販売機に活路を見いださざるを得ない状況に追い込まれた。

Xデーは木曜日、ターゲットは「漫画オリンピア」

その週の木曜日をXデーとし、事前に現場の前を行ったり来たりして、進入路、待避路、逃走路の確認を十分に行った。

同時に購入希望本の位置も頭に叩き込んだ。それは1秒でも早くボタンを押せるようにとの配慮であった。ちなみに今回のターゲットは『漫画オリンピア』という劇画タッチのエロ漫画雑誌であった。

決行当日、夕食を済ませると部屋に運動靴を運び入れた。

家人が寝静まったのを確認してからジャージに着替え窓から外に出る。アルミサッシのきしむ音がやたらと耳に付く。ジャージに着替えた理由は、深夜お巡りさんに出くわして職務質問された時に「いや、近々高校の体育祭があるのでその練習です」と言い訳をするためである。

早打つ鼓動を抑えつつ… ロザーナ、君のためなら何でもするさ!

早打つ鼓動を抑えつつ、ランニングのふりをして現場に向かう。その時口ずさんでいたのは当時流行していたTOTOの「ロザーナ」(1982年)だった。

「ロザーナ、君のためなら何でもするさ」の “ロザーナ” を “エロ本” に置き換えるとまさに今の私にピッタリの曲だと思ったからだ。さらにあのメロディーも、コソコソと挙動不審な事をしている自分に合致しているように思えた。幸い誰にも遭遇することなく現場に到着した。

「ロザーナ、君のためにここまで来たよ」

はやる気持ちを落ち着けて硬貨を投入し、中段の右側にある『漫画オリンピア』のボタンを押した。その瞬間、ものすごい音量で “ビー、ガチャン!!” と鳴って漫画が吐き出された。腰が抜けそうになった。

同様の経験をした人も多いだろうが、エロ本の自販機ってボタンを押すとものすごいビープ音がするのである。急いで漫画をジャージの背中に隠し、全速力で家まで逃げ帰った次第だが、途中でお巡りさんに出会っていたら「体育祭の種目は短距離?」と聞かれたことだろう。

もちろん帰路にロザーナは口ずさまなかった。

※2017年6月24日に掲載された記事をアップデート

カタリベ: 時の旅人

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